国総研講演会アーカイブ

平成19年度「国土技術政策総合研究所 講演会」 講演概要

 
特別講演
社会的合意形成を含む社会基盤整備
のためのプロジェクトマネジメントについて
東京工業大学大学院社会理工学研究科教授
桑子 敏雄

<桑子 敏雄(くわこ としお)氏 プロフィール>
 1951年生まれ。群馬県出身。東京大学文学部卒業。 東京大学大学院人文科学研究科哲学専修過程博士課程修了。現在、東京工業大学大学院社会理工学研究科教授。 NPO法人合意形成マネジメント協会を創設。専門は、合意形成論、価値構造、感性哲学。社会的合意形成プロセスについて、 理論と実践の両面から研究しており、この分野において日本を代表するパイオニアである。著書に『感性の哲学』(NHKブックス)、 『風景の中の環境哲学』(東京大学出版会)、編著に『環境と国土の価値構造』(東信堂)、など多数。

発生が憂慮される巨大災害と減災対策
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター長 教授
河田 惠昭

<河田 惠昭(かわた よしあき)氏 プロフィール>
 1946年生まれ。大阪府出身。京都大学工学部卒業。 京都大学大学院工学研究科博士課程土木工学専攻修了。 現在、京都大学防災研究所巨大災害研究センター長・教授。阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター長(兼務)。 専門は、巨大災害、都市災害、総合減災システム等。これまで災害に関する論文は約500偏にのぼり、 阪神・淡路大震災や新潟県中越地震を始め、災害現場での豊富な経験に裏打ちされた分析には定評がある。著書に、 『スーパー都市災害から生き残る』(新潮社)、編著に『必携 地震対策完全マニュアル』(PHP研究所)、 共著に『防災学ハンドブック』(朝倉書店)など多数。

一般講演
「国土マネジメントに関する諸問題について」−人との関わり−
研究総務官 西川 和廣
 国土マネジメントといっても、公式な定義があるだけではない。 しかし土地があるわけでは単なる領土であり、 人が住んで初めて国土である。したがって、人の営みを抜きにして議論することはできない。少子高齢化に伴い、 過疎化が進んで限界集落などという言葉が人口に膾炙するようになったが、何を持って限界とするのかについては諸説あり、 ソーシャルキャピタルなどという概念があるが、どこまで意味をなすのかは未知である。そうこうするうちに、 橋を始めとする社会資本ストックにかかわる事故が相次いでいる。これも、人が造ったものが、 人による管理の問題によって生じた出来事である。人の営みを通じて見えてくる国土マネジメントの一端について論じてみたい。

「地球温暖化に起因する気候変動に対する適応策に関する研究の概要」
河川研究部長 大平 一典
 1988 年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織である 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、 本年の2月から5月にかけて第4次報告書を公表した。河川研究部では、この第4次報告書を受けて、 本年4月から「気候変動研究チーム」を立ち上げ、 気候変動による日本での降雨等の変化の推定及び洪水・渇水・高潮等の発生様態の変化の予測と それへの適応策の研究を実施している。
本講演では、IPCCの第4次報告書の概要及び現在取り組んでいる研究の概要を紹介する。

「巨大高潮・津波災害に備える −低頻度メガリスク型沿岸域災害対策に関する研究のスコープ―」
沿岸海洋研究部長 樋口 嘉章
 我が国の沿岸域を襲う津波・高潮等は、地震想定の不確実性、 気候変動による台風の大型化、海面上昇による影響などから、 計画されている防御レヴェルを上回る可能性があります。 このような「低頻度メガリスク型沿岸域災害」に対する減災対策はまだ体系的に整理されていません。 当研究部では、発生頻度は低いものの、ひとたび生起すると沿岸域の居住者や各種の機能等に大きな被害をもたらす 低頻度メガリスク型沿岸域災害対策として、 災害時に減災効果があり、非災害時にも社会的効用がある対策(No-Regret-Policy)の提案を目指して研究を進めており、 防災・減災対策の高度化とアカウンタビリテイの向上を目指しています。本講演ではこの研究の現状とスコープについて報告します。

ITSの動向とスマートウェイの展開
高度情報化研究センター長 山田 篤司
 カーナビやETCのめざましい普及が代表するようにITSは我々の生活に身近なものとなってきている。
2004年スマートウェイ推進会議の提言を受け,様々な種類の,かつ大量の情報をスピーディに, 一つの車載器でやりとりできる車内環境の実現を図るため官民共同で研究が進められてきた. 開発された車載器の特性を活かした次世代道路サービスの本格運用に向け,本 年5月より首都高速道路上で音声や画像を用いた様々な情報を提供し,その効果や受容性等について検証を進めている.
その実験の概要,さらにはITS,スマートウェイの今後の展開について紹介したい。

「総合的なヒートアイランド対策のための技術開発」
都市研究部長 後藤 隆之
 ヒートアイランド対策に関する国土交通省の総合技術開発プロジェクト 「都市空間の熱環境評価・対策技術の開発」の技術開発成果について報告する。
今後のヒートアイランド対策が効果的に実施できるように、スーパーコンピュータや実測調査、 風洞実験などの科学的手法を駆使して、様々な対策の効果を総合的に予測できるシミュレーション技術を開発し、 国や地方公共団体等に向けてパソコンソフトとして実用化を目指すものである。
トピックとして、東京臨海・都心部における大規模実測調査、地球シミュレータによる大規模数値解析、 市街地改造による「風の道」に関するケーススタディ、対策効果シミュレーションソフトの開発について紹介したい。

「船舶動静把握システム(AIS)による港湾整備の新たな展開 ーレーダを超えるシステム開発の効用ー」
港湾研究部長 高橋 宏直
 2000年の「海上における人命の安全のための国際条約」改正により、 一定規模以上の船舶へのAIS(Automatic Identification System)装置の搭載が義務化された。 このため、陸上にAIS受信局を設置することで、従来のレーダーよりも遙かに効率的に周辺海域の船舶動静を 把握することが可能となった。
 このため,港湾研究部では東京湾沿岸部に複数のAIS受信局を設置して、 湾内のリアルタイム観測を可能とするとともに得られたデータを様々な観点から解析するシステムを開発した。
本講演では、東京湾のみならず国内および海外で取得されたデータを本システムで解析した結果を提示し、 さらに今後の港湾整備に向けての新たな展開方策を明らかにする。

「水質保全のための流域管理−日・米・欧の比較―」
下水道研究部長 藤木  修
 1960年代頃から多くの先進工業国で顕著となった水質汚濁問題に対処するため、 当初は事業場排水に対する排水規制などの制度化が図られた。しかしその後、 経済的手法の重要性が認識されるようになり、欧州では排水課徴金を中心とする環境税が普及してきた。 他方、米国では排水課徴金の採用例は少なく、近年連邦政府は、流域の排出者間の汚濁負荷排出枠の取引(水質取引)を推奨している。 わが国では、2005年に下水道法が改正され、下水道の終末処理場を対象として、米国の水質取引に類似した制度の導入が図られた。 本講演では、水質保全のための流域管理政策のなかでも特に経済的手法に焦点を当て、理論的な考察を交えながら、 日・米・欧の比較を試みる。