平成20度 第2回 国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会
(第二部会担当)

議 事 録


1. 開会/国総研所長挨拶
2. 分科会主査挨拶
3. 議事
(1) 評価の方法等について(確認)
(2) 平成19年度終了プロジェクト研究の事後評価
@歴史的文化的価値を踏まえた高齢建造物の合理的な再生・活用技術の開発
A人口減少社会に対応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発
B住宅の省エネルギー性能向上支援技術に関する研究
(3) 平成21年度開始予定研究課題の事前評価
C省CO2効果からみたヒートアイランド対策評価に関する研究
D小規模建築物の雨水浸入要因とその防止策に関する研究
E高層建築物の地震後の火災安全対策技術の開発
4. 今後の予定等について
5. 国総研所長挨拶/閉会


平成20年度第2回国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会(第二部会)

2008年7月24日

1.開会/国総研所長挨拶

【事務局】   それでは、ただいまより平成20年度第2回国土技術政策総合研究所研究評価委員会分科会(第二部会)を開催させていただきます。

【所長】  おはようございます。先週から実は、全体の組織の融合化、それからきのうは土木関係の評価で、きょうは建築関係の評価という予定で、委員の皆さんもきょうも朝早くからありがとうございます。一部の委員におかれては連日ということで、ほんとうにお世話になってございます。よろしくお願い申し上げます。

 各会でも申し上げているのですが、なるべくきちんとした成果が出るように我々もがんばってまいりたいと思いますので、きょうもぜひ、いろいろな忌憚のないご意見をいただけますようよろしくお願いを申し上げます。

2.分科会主査挨拶

【主査】  委員の皆様、朝早くからお集まりいただきましてありがとうございました。きょうは審議内容が内容盛りだくさんでございまして、こういう開始時間になったわけでございます。今回、事後評価が3つと事前評価が3つございます。いずれも昨今の、例えば低炭素化、あるいは地震等、社会情勢との関連の深い問題が審議されるわけでございます。このような国総研の研究の結果が世論を通じて、あるいは一般社会に幅広く反映されるように、皆様の忌憚のないご意見、ご指導をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

↑ページTOPに戻る

3.議事

(1)評価の方法について(確認)

【主査】  それでは、議事に従って進めますが。最初に評価方法の確認ということでございます。先ほど申しましたように、事後が3つ、事前が3つございます。そのやり方についてを事務局、ご説明ください。

【事務局】  それでは、資料2をごらんください。先ほどの委員の名簿の下に、1枚おめくりいただきますと出てまいります。評価の方法等についてということでございますが、まず、評価の目的についてでございます。「科学技術基本計画」「国の研究開発評価に関する大綱的指針」「行政機関が行う政策の評価に関する法律」等に基づき、公正かつ透明性のある研究評価を行うことを目的といたしまして実施いたしております。

 次に、評価の対象でございます。プロジェクト研究及び予算要求上評価が必要とされます研究課題を評価対象といたしております。事後評価は昨年度末で終了した研究課題、中間評価は研究期間が5年以上で本年度が3年目に当たる研究課題が対象とされておりますが、本年度は該当がございません。事前評価につきましては、平成21年度開始予定の研究課題でございます。

 次に、評価の視点と項目でございます。事後評価につきましては、必要性、効率性、有効性の観点を考慮いたしましてご了解いただきたく存じます。当初の目標に対する達成度、研究成果と成果の活用方針、研究の実施方法、体制の妥当性、上記を踏まえた本研究の妥当性の観点からご評価をお願いいたします。

 事前評価につきましても同じく、必要性、効率性、有効性の観点からを考慮いたしまして、研究の背景を踏まえた研究の必要性、研究の実施方法、体制の妥当性、研究生活の見込みと成果の活用方針の観点からご評価をお願いいたします。

 1枚おめくりいただきます。本日の評価の進め方でございます。個別の研究課題ごとにご評価をいただくことを予定いたしております。まず事務局よりご説明いたしまして、それに基づき意見交換をいただき、最後に主査からご総括をいただくという形になってございます。意見交換のお時間中に、お手元にございます評価シート、コメントシートにご記入をいただきまして、意見交換終了時に事務局のほうで回収させていただきまして、評点等をつけさせていただく形を予定いたしております。

 評価結果の取りまとめにつきましては、本日のご審議及び評価シート等の内容に基づきまして、主査のご責任におきまして取りまとめをいたします。その後、研究評価委員会委員長の同意を経まして、国土技術政策総合研究所研究評価委員会の評価結果とすることを予定いたしております。なお、本評価決定につきましては、報告書として取りまとめますとともに、ホームページ等でも公開してまいりますので、ご了承をお願いいたします。

 なお、次のページに別添1ということで「分科会委員が評価対象課題に参画している場合等について」という取り決めをさせていただいているところでございますが、本日の該当はございませんのでご報告いたします。

 以上です。

【主査】  ありがとうございました。

 先生方、今ご説明がございましたように、1件ずつ説明した後に討論して、そこで評価するということでございます。お手元に点をつける事後評価シートとか事前評価シートがございますから、これを審議中にお書き込みいただいて、審議の時間の終わりになったら事務局で集めて結果をプロジェクターで映すという段取りでございます。それを見て主査の私が大まかな総括をするという、そういう順番になっておりますので、よろしくご協力をお願いします。

 何か先生方、質問ございますか。

 よろしゅうございますか。それでは、議事の2の19年度終了のプロジェクトの事後評価に入ります。3つございます。1つ目が歴史的文化的価値を踏まえた高齢建造物の合理的な再生・活用技術の開発、2つ目が人口減少社会に対応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発、3つ目が住宅の省エネルギー性能向上支援技術に関する研究でございます。@からでよろしいわけですね。じゃあ、よろしくお願いします。説明は15分でございまして、それから質疑の時間が20分となっています。これは事後評価の場合ですね。事前評価の説明や審議の時間はもうちょっと短くなると思います。最後の総括に3分と。そういうような予定でございます。

 

↑ページTOPに戻る

(2)平成19年度終了プロジェクト研究等の事後評価

〈事後評価課題@「歴史的文化的価値を踏まえた高齢建造物の合理的な再生・活用技術の開発」〉

【主査】  それでは、プロジェクトリーダーの説明をお願いします。

【国総研】  都市防災研究室の○○です。昨年度までの3年間、前任の建設経済研究室でプロジェクトリーダーを務めた標題の課題について説明いたします。

 初めに、本研究の概要です。研究の背景としては、公共建築において築50年以上を経過するRC造かつ中小規模のものが増大しており、これらの多くは古くからの町の中心に立地して地域の歴史を象徴しており、まちづくりの重要要素となっていることがあります。従来、大規模で超1級の歴史的建築物の再生に関しては、個々の建物ごとに専門家の参画のもとに大がかりな調査や計画検討を行ってきていますが、こうした中小の建物においてこうした対応は難しく、建物の価値について諸説ある中で、その価値に見合った適切な再生・活用手法を選択し実施していくことを、場合によっては公共のインハウス職員が担当していくということが考えられます。

 そこで研究の目的として、中小規模のRC造の公共建築物を主に想定して、歴史的建築物の保存・活用の推進を支援するため、共通的な技術開発課題を抽出・整理し、これらにかかわる一元的な研究、すなわち再生評価技術・再生要素技術・再生計画技術の開発を進めようというものです。

 このスライドについては、少し字が小さくて申しわけございません。雰囲気を見ていただければと思います。研究は、「歴史的建築物の価値評価手法の開発」、「技術選択に関する標準プロセスの開発」、「確保困難な技能の調達手法の検討」という3つの検討により構成することといたしました。また検討の過程においては、地方気象台と市の郷土資料館という2つの実際の建物を対象にケーススタディーを行い、検証を行いつつ進めてました。

 事例調査・ケーススタディーの対象とした4つの建物を示しますが、函館の旧末広町庁舎、横浜税関の本関庁舎、松山地方気象台、そして常陸太田市の梅津会館です。これらの、規模・用途・あるいは改修段階の異なる建物を対象に、3つの検討において表の下に示すような検討項目を、具体には後に触れますが、実施いたしました。

 まず、歴史的建築物の価値評価手法の開発です。歴史的建築物の再生・活用の検討に当たっては、とりわけ超1級でないものということで、その価値との見合いでどの程度の費用をかけて、どこまで修復するのかという問題があります。こうした、まだ実現していない環境の非利用価値にかかわる評価については、CVMやコンジョイントといった表明選好法による価値評価手法が存在しており、河川だとか公園の分野等で実績のあるところでありますが、規模、用途、意匠が多様であって、復元保存等からイメージ保存など、いろいろな保存手法がさまざまに考えられる歴史的建築物を対象とした事例というのはあまりありません。

 そこで、これらの手法をこうした歴史的建築物に適用する場合のバイアスや受益範囲の検証、あるいは改修レベルと建物の価値の変化を検証することを目的とした調査を行うなど、歴史的建築物の保存にかかわる便益の検討を行っています。

 以下、3つの建物を対象とした調査のうち、2番目の松山気象台における計測を中心に述べます。調査手法としては、松山市民を対象としたWebによるアンケートにより行いました。まず、歴史的建築物の非利用価値につきまして、既存調査等を参考に歴史的価値、文化的価値、まちづくり上の価値という3つの価値に分けて、それぞれの重要度を聞いています。その上で、これら各価値要素に対する、全面保存から建て替えに至る4つの代替案の有効性を聞いています。そして、一般ビルに建て替える場合と比較して、全面保存とする場合の支払意思額を聞くことによって、計算により各価値要素ごとの代替案の評価を算出しています。あわせて、単なる気象台への建て替えではなく、地域に開かれた場所としても活用することによる支払意思額の増分も聞いていいます。

 結果については、スライドのようにそれぞれの値が価値要素ごとに世帯単位で算出され、先ほどの活用シナリオによる価値の差についても、保存のみの場合と活用策を付加した場合の違い等が算出できています。

 ところで、CVMについては、バイアスへの考慮や受益範囲の設定等において慎重な考慮が必要であることが一般に知られています。ここでは、幾つかの留意点について、対応を図った内容を説明します。スライドにバイアスや考慮点の例と、それに対する対応内容を示しています。伝達内容の正確さ、質問意図との相違等については、先ほどに示したようにわかりやすい、明確なイメージを作成した上で比較実験を行い、アンケート表において保存案の差を理解しているかを問う設問も置いています。9割程度の回答者が理解していることを確認できました。受益範囲については、気象台とのかかわりや距離などと支払意思額との関係を検証し、回答者が偏っていないことと、回答の差などを検証しております。検証の結果、代替案の比較等の検討におおむね活用できるのではと考えているところです。

 なお、歴史的建築物の再生・活用の検討については、周辺の歴史的街並みについて、幾つかのまちづくりのケースが考えられる場合や、改修後の用途が明確に定まっていない場合が考えられます。梅津会館においてはこのような場合を想定し、コンジョイント分析手法によりスライドに示すように、街並みについてこのような3つの場合、保存案については先ほどの4つの場合、そして用途についてはこうした3つの場合、の選択肢を設けたコンジョイント分析を行っています。簡単ですが、居住者の居住地を考慮した分析もしており、結果としては、建物周辺の住民は現状の街並みを前提に全面保存、郷土資料館を支持し、建物から離れた住民は、統一感のある歴史的な街並み、全面保存、郷土資料館を支持している、といったの傾向の違いが結果として出ています。ただし、回答者が男性高齢者に偏った結果となったことや、複雑な計算処理を伴うことから、現段階では課題を明確にしたというところにとどまっています。

 横浜税関については、対象者の違いにより、評価額の違いがどのように出てくるかを検証しています。スライドに示す観光客と市民との差は個人単位と世帯単位による違いと考えられますが、専門家と一般の方との間では、このように大きな評価額の違いがあることがわかりました。

 以上のように、事例のほとんどない分野において3つの建物を対象として研究結果の蓄積を図ったと考えていますが、結果を踏まえて、CVMにAHPを組み合わせた手法を前提に、実施のフローと留意点についてスライドのようにまとめまして、今後、この手法を適用する場合の手引きとしてまとめる予定です。

 次に2つ目の検討内容の説明に入ります。歴史的価値を考慮する必要がある中小の建物が増える中で、インハウスの技術者が通常の業務の範疇で対応を行う場合、歴史的建築物に対する事業の進め方や、事業の進捗段階における検討内容の目安が必要と考えられます。そこで、構想、調査、設計、施工といった事業の進捗の各段階に求められる、適用する技術・手法の流れについて、把握すべき建築物の状態や適用する技術選択の目安を示すような流れを標準プロセスとしてまとめています。あわせて、各段階で参照すべき技術情報として、耐震補強等の構工法メニューについて収集、整理しています。

 ここでは具体事例に当たる函館市の旧末広町庁舎、これが函館市地域交流まちづくりセンターとして改修されたわけですが、その竣工までに至る間の技術選択の変遷を整理いたしました。耐震・耐久性関係について手短に説明しますと、事前の調査結果から部分解体による耐震性確保の方針が決まり、可逆性を考慮した結果、補強法として柱梁部分の繊維補強、後施工アンカーを用いた耐力壁の増設と、耐久性向上で電気化学的再アルカリ化を予定しましたが、施工後、脆弱部が露呈したなどにより、増し打ちが余儀なくされ、コストの観点から塗布工法へと変更していたといった内容が打ち合わせ記録の分析から読み取れています。

 こういった整理を踏まえて技術選択の観点を、スライドのこちらにある5つに分類して、各観点について事業の進捗度による技術選択の項目と、その内容の熟度について、この図のように整理しました。この凡例に示すように、検討項目を黄色、選択肢を青色の枠、参照する情報を下線の流れで整理しました。こうした技術選択の流れを、他の事例の検討なども踏まえた上で「標準プロセス」と定義し、各項目での判断基準についてチェックシートという形で取りまとめています。チェックシートの体裁はこのスライドのようなもので、記載シート部分と記載マニュアルから成り立ちます。このシートの運用性についてケーススタディーを、計画段階にある梅津会館と実施段階にある松山地方気象台とで、2つの場合の適応性を検討しています。

 また、検討項目において、プロセスの各段階で参照される技術情報について、スライドに示すような情報の蓄積を図り、標準プロセスの流れとあわせて実務上の手引きとなるような解説書として取りまとめる予定です。

 最後になりますが、公共発注において技能を調達する際の手法について検討しています。歴史的建築物に供する技能の調達については、技能保有者が少ないものの、唯一ではないことから、公共発注をめぐる現在の状況下では特命的な調達が難しく、公平性を確保しつつ求める技能を調達・発注するということが大変困難になっています。価格以外の競争性を求める発注方式としては、総合評価方式というものが現状では一般的であるので、歴史的な中小のRC造の建築において、典型的な部位とそこに求めるべき技能水準を設定した上で、総合評価方式を想定した技能調達の方法について、公示の方法や仕様書の記載の方法について検討を行いました。

 対象となり得るような部位について、スライドに示すように屋根、左官、木部、内装仕上、石といった工種を選定し、工事記録から、それぞれの工種においてどのような技能選定をしているかを抽出、整理し、判断基準となる要素についてまとめ、松山地方気象台の改修保存計画案を満たす内容の工事を想定した公示文・仕様書記載書事項の例示案を検討しました。その上で、実際にこれを満たす技能者がどれぐらいいるかについて、技能団体資料等から検討し、複数社の受注可能性があるということが判明し、この方式による調達の可能性が示されています。同時に、より確実に施工するために情報基盤の充実が求められます。ここまでの検討は発注者側の立場からの検討にとどまっていますので、この検討については、今年度、受注社側の事情について継続して調査を行いたいと考えています。

 簡単ですが、研究の実施体制についてまとめますが、検討会あるいはケーススタディーについて、文化庁、建築研究所、大学等の研究者などと適宜協力して実施しています。

 成果の目標の達成度ですが、歴史的価値の評価については基本的にかなりのスタディーを行って、CVM+AHPにより選択肢から選ぶ際の参考にできることがわかり、標準プロセスについては検討手順、考慮事項等を整理して、今後解説書としてまとめ、技能調達については、受注者側からの検討を今年度引き続き行います。

 以上です。

【主査】  ありがとうございました。先生方、どうぞご自由にご発言ください。

【委員】  歴史的建築物の保存案についてCVMなどを用いて検討するとのことですが、例えば4番目の一般のビルに建てかえた場合の価値というのは、ビル本来の機能が大きく評価されなくてはいけません。事務の効率化、近代化とか、あるいは公共サービスの質の向上について、CVMなど大雑把な手法によらず、便益を直接的かつ正確に計測できると思うのですが、その辺はどのようにやられているのでしょうか。

【国総研】  ここでは、歴史的意匠等を保存する場合の価値について測定するということに重点を置いて、その便益を比較するということで、このD案とA案の比較を行いました。おっしゃるように、D案については、バリアフリー化や特別な意匠を図った結果、いろいろな機能や意匠等についての特有の価値が生じる場合があります。、D案については、そうした価値を対象とするのではなく、機能向上などが一般に図られるということを示した上で、一般的な近代的ビルと比較した場合のA案のあえて保存する場合の歴史的価値の差について問うという方法をとりました。

【委員】  とするとD案が選ばれるということはまずないですよね。要は、実際に支払意思額がどのぐらいあるかというのを確かめたかったと。

【国総研】  そうです。

【委員】  つまり、これはA案からD案まで営繕の部署の方々が選択する時の、ごく一部の指標に過ぎないということですね。

【国総研】  そうです。事業一般としての評価については、営繕事業についての建て替えや改修等の評価手法があるので、それとは別に歴史的価値の部分に限った評価をしました。

【委員】  そうするとA案、B案、C案、D案で、例えば公共サービスの質の向上に絡めて建物のあり方について市民の意見を聞く、というのとは違うわけですよね。

 

【国総研】  はい、違います。

【委員】  それは別途市民に聞いたりして、最終的な決断は、そういうものをすべて総合化しなければいけないということですよね。

【国総研】  基本的にはそうなると思います。

【主査】  ほかにございませんでしょうか。

【委員】  今のことに関連しますけれども、多分、何がはかられて、何がはかられていないかというのを少し明確にしたほうがいいのかなというふうに思います。最終的なアウトプットはですね。

 もう一つ、機能向上が図られるかもしれないことを伝えているので、微妙なのが若干一部入っちゃっているんですよね、その価値が。だから、完全に分類していないところがむしろちょっと心配だなという感じがいたしました。

 それから、同じところで、ちょっとご説明をうまくフォローできなかったのかもしれないのですが、なぜ全面保存の場合を見ることによって、部分改修等の価値もわかるのかがちょっとわからなかったのですが、もしかすると、説明を省いたAHPの使い方ですね、ここにもしかしたらかぎがあるのかなというふうに思ったのですけど。

【国総研】  スライドの字が小さくて恐縮ですが、A、B、C、Dの各案の歴史的価値、文化的価値、まちづくり上の価値について、どの程度の評価を与えられるかを聞いています。これにより、A案、B案、C案、D案のそれぞれの価値が相対的に評価され、その上で、A案とD案の絶対的な評価額の違いを聞いた結果から、ここに示した計算のステップを踏むことにより、それぞれの価値が算出される。大まかには、そのような流れとなります。

【委員】  それはどこでAHPを使っているんですか。

【国総研】  このA案からD案の相対的価値を算出するに当たって、A案とB案、B案とC案、C案とD案について、どちらのほうがどれだけ価値が保全されるかを聞いて、重みづけを出しております。

【委員】  それで、AHPの場合は、例えばかなり重要であるとか、何かそういうのを数字に置きかえるわけですね。それはよく5倍とか3倍とか2倍とか、いわばかなりアプリオリに設定するところがありまして、それを直接価格にするのについては若干危険性を覚えるんですよね。ですから、これで多分、例えば4だったら2倍とか、3だったら3倍とか、何かそういうふうにしているんだと思うんですけれども、それは実際に3倍が絶対いいというわけではなくて、4倍にしたほうがいいとかいう、いろいろな例があるわけですね。それは直接価格にこの場合は行っているので、ちょっとそれでほんとうに分析したことになるのかなと。むしろ、せっかくCVMをやっているんだから、CVMで検証したほうがまだよかったんじゃないかなという気がするんですが、その辺、いかがでしょう。

【国総研】  おっしゃるような懸念や、D案と比較したA案、B案、C案の価値を直接問うたほうがよかったのではという考えもあるかと思いますが、それぞれの回答が後ほどの回答に影響を与えるということも考えられますので、今回はこのような手法をとった次第です。

【委員】  よろしいですか。

【主査】  はい、どうぞ。

【委員】  9枚目のスライドのところで、価値評価手法の手順、これをこれから取りまとめるというふうに書いてあるのですが、こういう歴史的価値のある建物ということで議論する場合に、ここでいうとDの話なんですけれども、どのぐらいの範囲の人々を対象にすべきかというのは非常に大きな問題になると思うんですけれども、その辺はこの手引き書みたいなところには何か指針というか、こういう場合にはこのぐらいの範囲とか、そういうのは書かれるんでしょうか。

【国総研】  大きな範囲での調査をして、受益範囲を具体的に測定できれば良いのですが、難しかしかったので、なるべく控え目な範囲で行うことと、その範囲内で大きな差ないことを検証する、また、小さな範囲で測定した結果について、より拡大した受益範囲を設定するようなことを行わない、というのが基本的な留意点かと考えています。

【委員】  過去の例でも、ある程度狭い範囲で保存するとかしないとか決定した、ある程度の方向性を決めた後で、例えば全国的な規模でやっぱり保存すべきだとか、そういう運動が盛り上がるという例は随分ありますよね。その辺がやっぱり、せっかくここまでやっておいて、ある程度成案ができた段階で、またある意味でいろいろな意見が出てきて、考え直さなければいけないというのはやっぱり避けるべきだと思うんですよね。この辺の配慮というのがやっぱり必要なのかなという。一番いいのはやっぱり受益者の範囲を、この場合にはこれぐらいまで広げ、例えば県のレベルまで広げると、そういう指針をある程度示していただくといいのかなと。

【国総研】  そこまでは今回は到達していないと考えています。

【主査】  先生方、審査委員が10名おられて、20分を10で割ると1人2分見当となります。ですから、質問と回答を簡明にお願いします。それでもし時間が余れば2巡目の質疑に行くという形で進めていただいたほうが、より実りあるかと思います。

【委員】  まちづくり上の価値についてお伺い致します。まちづくりの問題は市民の活動そのものと関係がありますので、それぞれ地域の個別性があると思うんですが、今のプレゼンテーションではこの研究の体制等の中に、その事に対する配慮が、見えなかったように思います。まちづくりの問題をどのように考えておられるか、補足説明をしていただきたいと思います。ここで想定されているまちづくり上の価値という概念について、もう少し具体的にお話をいただければと思います。

【国総研】  まず後半について回答しますと、アンケートですので、アンケート中で説明できる範囲ということで、ここでは一般的に地域住民に愛着を持たれ街並み形成上の目印となることや、周辺と一体となって価値のある景観を形成している価値というように説明した上で、各建物に即してその内容について具体的に説明し、その説明した範囲の中で答えてもらっているものが、ここでいうまちづくりの価値だと考えています。

 前半のご質問ですが、基本的には単体の改修を中心に考えています。価値評価などにおいては、まちづくり上の価値という、まちづくりとの関わりが出てくるので、その範囲でそれについて取り組みました。

【委員】  歴史的建造物の保存の意思決定において、地域の住民の方によるまちづくり活動との関係の中で判断が求められるということは、一般的によくあることだと思います。建物そのものの評価だけではなく、特に、活用とか維持管理上の問題について、まちづくりとの関係というのが重要なわけす。そうすると、文化的価値や歴史的価値の判断とは多分違う観点で、このまちづくりの問題は見ていかないといけないということになります。もちろん、今おっしゃったような事柄を否定するわけではありません。それはあっていいと思いますが、それに加えてプロセスの問題をまちづくりの問題としても扱わなければいけないと思います。そういうことがどこかで補完されるようになっているかなということで、最初の質問をさせていただきました。

【国総研】  そのような観点があることは、重々承知してはいます。

【委員】  最初の○○先生のご質問と今の○○先生のご質問に関連して、もう時間がないでしょうから意見だけ申し上げておきますけれども、こういう建物をどう扱うか、事業評価全体、意思決定の中のサブセットをつくったと、歴史的価値を評価するためのサブセットをつくったということでは理解できますが、逆に、歴史的な価値評価ということでは、今度は絞りすぎているように私は思います。今、○○先生も暗にそうおっしゃったのではないかと理解いたしますけれども、少なくともこういった建物の保存が問題になるときに、例えば建築・歴史の専門の方々がおっしゃっているような評価軸はどういうのがあって、それと、ここで扱っていらっしゃる、実際に提示されたクライテリアがそれと重なっているのか、ずれているのか、そういったことがはっきりした上で、ポジションがはっきりした上でこのプレゼンテーションをされるべきだというように思います。

 もう時間がないから意見だけ申し上げます。

【主査】  まだ大丈夫ですよ。

【国総研】  では簡単ですが、基本的なスタンスとしては前半に説明したように、中小の大きく議論にならない建物について、インハウスで簡易な検討を行うことを前提にしているので、まちづくりとの関係などで大きな議論を呼ぶようなもの、あるいは全国的に話が広がるようなものについては、別途違った、それこそお金をかけた調査ができるものだと考えています。

【委員】  その場合はやはり慎重に、多くある価値の中のこの部分を定量的に評価したという断り書きが必要だと思います。

【国総研】  はい。

【委員】  評価の手法等についてはもう皆さんから指摘されているので、技術的なことをお聞きしたいのですが、今後、こういう建築物は増えていくと思うんですけれども、増えていったときに、実施された研究で足りなかった部分というか、技術的には今後こんなことを開発しなければいけないというのがもし具体的に出てきているのであれば、それを示していただければと思います。

【国総研】  改修等の実際の技術に関しては、通常やられている範囲のものを、どちらかとうとやり方を整理したという部分に注力しておりまして、基本的には新しくしたというところではないと。むしろ、工法メニューを収集するとかいうところでも、新たにやったところとすると、適用した後の事後評価的なものをして、耐震改修の方法なんかではこういうものが妥当であるとか、そうでないという評価をしておるのですけれども、むしろそういう、今、一般的に使われているものの歴史的な建物に対する適用の再評価というところがむしろ足りないというふうに考えて……。

【委員】  もっといい、こういう技術があったらいいんじゃないかという、そういう観点での検討はされていないんですか。

【国総研】  今回は基本的には耐震を基本的な手当の範疇で使えるものが何かというような検討に、どちらかというと注力をしているということです。短期的・中長期的にこういうものがあるといいなというところは、あまり対応はしていません。

【主査】  ほかにございませんか。

 私のほうから一言お聞きしたいのですが、コンクリートの建物に限定していますね。これは、検討対象から考えて限定して十分だという、そういう判断のもとに限定されたわけですか。

【国総研】  組積造の建物がほかにありますが、これについては、過去のプロジェクトで検討した実績があり、また今後、改修の必要性が新たに生じてくるものはRC造が多いということから、RC造に注力しました。

【主査】  手法自体は別にRCに限定されないと考えてよろしいですか。

【国総研】  評価については、RC造に限定されず一般的なものとなります。

【主査】  次に、このCVMとかAHPについてお聞きします。こういう歴史的建造物を保存したら、例えばツーリズムが増えて、交通需要が増えるとか、あるいはレストランサービスが増えるとか、そういう経済的効果もあると思うんですが、そういうことは今回の評価の対象には入っていないんでしょうか。

【国総研】  利用価値等にかかわる評価は、改修が実現した後に測ることは可能ですが、実現する前にどれぐらい観光客が来るかは、予測が難しいということで、今回は検討していません。そのような多くの研究が、特に建物群を対象として行われていることは、もちろん承知しています。

【主査】  よろしゅうございますか、先生方。

 それでは、評価シートにお書き込みいただいて、事務局にお渡しいただければありがたいと思います。

(評価シート記入)

【主査】  このとおりでございます。評価の結果のほうは1、2、3がそれぞれ2票になりますから6票ですか。あと3が2票。結構厳しいですね。目標の達成度がそれぞれ2票のところで8票ですか。ということで、評価の結果も2番、「おおむね適切であった」と。研究の実施方法・体制等の妥当性も「おおむね適切であった」となっております。目標達成度も目標を達成できたというのが最も多くなっております。こういうような結果でございますが、結構、いろいろなご意見がございます。褒めているのと褒めていないのと両方ございます。こんなところですから、両方とも2番でよろしゅうございますか。「おおむね適切であった」、「おおむね達成できた」と。よろしゅうございますか。どうもありがとうございました。

↑ページTOPに戻る

〈事後評価課題A「人口減少社会に対応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発」〉

【主査】 それでは、次の「人口減少社会に対応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発」にうつります。説明をお願いします。

【国総研】  「人口減少社会に対応した郊外住宅地等の再生・再編手法の開発」について、住宅研究部、都市研究部よりご説明申し上げます。

 まず、研究の背景と目的でございますが、本格的な人口・世帯減少社会の到来を迎える中で、郊外住宅地の衰退が全国的な課題になることが予想されます。本研究は、郊外住宅地等の再生等の円滑な実現方策の開発により、郊外住宅地等の衰退が放置されることにより発生する社会的コストの軽減を図ることを研究の目的としております。

 研究の基本的スタンスですが、郊外住宅の衰退が放置されることは、地域住民にとってはQOLの低下、行政にとっては人口減少下での税収減の一方で、対策コストが増加していくというようなことが懸念されることから、本研究では、地域住民の主体的な取り組みによる再生が可能な時期に、そうした再生を行政が後押しをするというようなことを基本スタンスといたしまして、空き地・空き家の増加、あるいは居住者の高齢化等に対応した形での住宅地の再生を促していくというようなことを方向性としております。

 このため、地域住民の主体による再生手法及び合意形成の支援ツールを提供すること、行政が住民主体の再生を支援する判断基準や、その技術的根拠を提供するということを研究のアウトプットと設定し、郊外が衰退することにより発生する行政コスト、住宅地が衰退することにより地域住民が負担すべきコスト、さらには郊外住宅地を再生することによって行政及び地域住民にとって得られる効果に着眼し、研究を実施いたしました。研究の主な内容は、都市全域での将来行政コストの推計と、対策技術として住宅地レベルでの再生手法と、再生の費用便益手法の開発であります。その概要についてご説明申し上げます。

 まず、都市レベルでの将来行政コストの推計手法の概要についてご説明します。研究のフローですが、地区単位別の将来人口世帯の推計手法をまず行いました。この場合、従来のコーホート要因法において用いられているような市域全域で純移動率を設定するという方法を少し工夫をし、地区単位別に純移動率を求めるという方法により、分析可能な最小地区単位での人口・世帯推計を実施し、その結果に基づいて都市全域での将来行政コストの推計を行いました。対象とした行政サービス項目は、ネットワーク型サービス、拠点型サービスそれぞれについて、こちらに示しております@からHの9項目を対象といたしました。推計対象期間は研究開始平成17年から平成37年までの20年間としています。

 推計の基本的な考え方でございますが、推計手法のモデル化による理論的な検討と、実際の都市を対象として利用可能なデータを用いたケーススタディーとを一体的に実施いたしました。対象都市は、地方都市として福井市、大都市圏の郊外都市として千葉県の木更津市を対象としました。

 福井市における救急搬送コストの推計の考え方と、その推計結果についてポイントについて説明いたします。推計のフローにつきましては、地区単位別の人口・世帯推計結果に基づき、まず平成37年時点での地区別の搬送件数を予測いたします。こちらの図が平成37年の状況を平成17年比で示しておりますが、赤い部分ほど発生件数が増加するエリアということになります。次に、消防署の位置がわかっておりますので、その消防署の位置をベースに、ボロノイ分割によりそれぞれの圏域を設定いたしまして、それぞれの救急出動隊別に搬送距離がどのぐらい伸びるかの予測を行いまして、この両者を掛け合わせる、また足し算をすることによりまして、市域全域の救急搬送コストの推計を実施いたしました。その結果をこちらの図に示しておりますが、1人当たりの行政コストで示しますと、平成31年度に向かってコストがかなり増加していくという予測結果になっております。

 その他のすべての行政コスト項目につきましても、それぞれ推計フローを組み立てて推計を行いました。福井市及び木更津市における全結果をこちらの図に示しておりますが、いずれの行政項目につきましても、平成17年比で平成37年に向かって、生産年齢人口1人当たりのコストが増加していくという予測結果になっております。

 次に、今回の研究対象である郊外部に着目しまして、行政コストに占める郊外住宅地の割合について推計を行いました。まず、福井市につきまして、市全域を中心市街地──青い部分でございます。それと、郊外部、その他──これは農村部、山林等が中心でございますが、の3区分いたしまして推計を行いました。こちらの図は生産年齢人口1人当たりの訪問介護等コストについて、各地区のコスト割合が平成37年に向かってどのように変化していくのかとの推計結果を示しています。結果は郊外部におけるコストの伸びが顕著でございまして、それが市全域の行政コストに及ぼす影響が大きいことが示されております。なお、その他の項目につきましても同様の分析を実施したところ、同様に、郊外部における生産年齢人口1人当たりコストの伸びが顕著であるという結果が示されております。

 また、木更津市におきましても、福井市と同様の分析を行ったところ。同様の結果が示されております。

 こうしたことから、人口減少下において行政コストの低減を図るという観点からは、郊外部の適切な再生を行いながら都市構造を再編していくことの必要性が指摘できるのではないかと考えております。

 次に、個々の住宅地レベルでの再生手法及び再生の費用便益評価手法についてご説明申し上げます。研究のフローでございますが、まず、住宅地の実態把握を踏まえまして、再生を実施しない場合、平成37年において空き地・空き家がどの程度発生するのか、住宅地がどういう姿になるのかという予測をいたします。一方、再生を実施する場合について、その具体の再生手法の開発と、再生をした場合にどのような効果が得られるのかの予測手法を開発いたしました。これら両者を踏まえて、再生を実施しない場合と再生を実施した場合の費用便益の評価手法の開発を実施いたしました。こちらの検討に当たりましても、理論的な検討と、実際の住宅地として木更津市のCI団地という郊外戸建住宅地を対象としたモデルスタディーとを一体的に実施いたしました。再生の期間は平成37年までの20年間の期間を想定いたしました。

 具体の研究内容についてですが、まず、様々な再生方法について検討するとともに、対象としましたモデル住宅地において再生計画を作成するというケーススタディーを実施いたしました。居住者、及び空き地・空き家所有者にアンケート調査を実施しまして、再生にかかるさまざまな意向を把握し、次に地域住民とミニワークショップを開催しまして、再生シナリオを設定しながら、再生計画をつくり上げていくというプロセスをとりました。

 調査による主な意向を簡単にご説明しますと、CI団地の現居住者の4分の1が現在の住宅に愛着を持ちつつも、現住宅地では老後が大変心配であるというような理由で、住み替えを予定しているというような意見が多くございました。また、空き地・空き家所有者の多くは、その不動産を売却することを強く希望していますが、市場性の点でなかなか現実的に難しいというような状況もあることが分かりました。さらに、居住者の大半が空き地・空き家を共同利用することにいて大きなニーズを持っていることが分かりました。このような意向を踏まえながら、再生シナリオの設定に当たりましては、現居住者の転出要因に対応した取り組みを行いながら、できる限り社会的転出を防ぐ再生を行っていくこと、さらには地域住民やNPO等が空き地・空き家を積極的に活用する再生を行っていくこととしました。

 次に、その再生計画に基づき、実際に行うべき再生の実施メニューを設定いたしまして、その再生の実施メニューを行った場合、住宅地においてどのような再生の便益が得られるのかの推計を行いました。

 まず、便益項目の設定を行いました。便益項目の設定に当たりましては、それぞれの施策メニューごとに便益帰着構成表を作成いたしまして、次に、こちらに示すようなチェーンモデルをつくりまして、アウトカム的な便益の項目、住宅地の再生におるアウトカム的な便益項目につきまして、行政に帰着する便益と地域住民に帰着する便益とに区分しながら整理をしました。

 次に、設定した再生の便益項目につきまして、推計式及び推計フローを組み立て、原単位を収集して便益額の推計を行いました。その結果がこちらの表に示しています。この再生計画によると、行政にとっては合計として約1.5億円の便益が、地域住民にとっては合計として約1.9億円の便益が得られるという推計結果になりました。なお、この便益額でありいますが、再生期間20年間の総便益で、名目価格を現在価値化した額として示しております。推計手法の一例をお示ししますと、このような推計式、さらには推計フローをそれぞれ組み立てながら推計を行たっということでございます。

 次に、再生の費用につきましても同様に推計を行いました。この場合も、行政の負担する費用と地域住民が負担する費用に区分して推計を行いました。まず最初に、行政が負担すべき費用でございますが、再生の実施メニューのうち、まず直接的に行政が負担すべき費用として公園のリニューアル工事というものが挙げられますので、まずは行政の負担費用が公園のリニューアル工事だけであるという仮定に基づきまして、行政及び地域住民にとっての再生の負担費用を推計いたしました。この場合の費用便益の評価結果を上の表に示しております。地域住民が主体的に実施した再生により、行政にとっては非常に大きな費用便益比、費用便益差が得られるというような推計結果になっております。

 ただし、地域住民の主体による再生が実現されなければ、行政にとっての便益が生じることはありませんおで、再生計画が円滑に実現されるよう、行政にとっては地域住民が主体的に実施する再生を支援することによって、再生を実現させていくことが実際的には必要になると考えられます。

 そこで、次に行政の具体の支援内容を想定しまして、それぞれの支援内容ごとに、例えば補助の額であるとか補助の期間といった形で支援の条件を設定いたしまして、20年間の行政の支援総額が幾らになるのかについての推計を行いました。次に、その行政の推計支援の額を組み込んだ形で、行政及び地域住民にとっての再生の費用便益比を評価するという仕組みを開発いたしました。こちらの下表にお示ししている行政支援を含めた費用便益の推計結果を見ますと、行政が一定の支援を行ったとしても、相変わらず行政にとっては大きな費用便益比が得られておりますし、また、地域住民にとっても費用便益比が大きくなり、両者にとって効果的な再生であるという評価ができることになります。

 研究の主な到達点でございますが、都市全域における将来行政コストの推計手法をまず開発することにより、人口世帯の空間分布構造の変化が将来行政コストに及ぼす影響について予測することを可能にしました。また、地域住民の主体による郊外戸建住宅地の再生手法を提案し、再生を実施した場合の費用便益の推計手法を開発することにより、再生計画を立案し、再生が実現した場合のそれぞれの効果を評価することを可能にしました。

 研究成果の活用でございますが、地域住民による住宅地再生計画提案制度という仕組みを提案しております。これは地域住民が再生計画を作成し、行政に対して計画提案を行い、行政は提案された計画を評価し、その費用便益差等を考慮しながら、その地域住民の再生を支援するという仕組みでございます。こうした仕組みを地方公共団体や地域住民等が運用していくためのマニュアルといたしまして、本研究成果をもとに、都市の将来行政コストの推計マニュアル、郊外住宅地の再生の費用便益評価マニュアルとを取りまとめていきたいと考えております。

 以上で、ご説明を終わらせていただきます。

【主査】  ありがとうございました。

 それでは、委員の先生方、ご自由にご発言をお願いします。

【委員】  全くの素人なので一番最初に一番単純な質問をさせていただきますが、郊外住宅地というのと中心市街地というのは、どうやって区分するんでしょうか。

【国総研】  それぞれの都市におきまして、中心市街地の活性化計画等に位置づけられているエリア内を中心市街地、その周辺、フリンジ部分に計画開発的に建っている住宅地を郊外住宅地と、一概にはそういうような形で区分しております。

【委員】  すみません、全く素人なので、最初の区分そのものが結果を推計させるような区分になっていないかどうかというのがすごく気になるのですが、その点はいかがなのでしょうか。もともと住宅地はそういうふうになるというのは何となくわかっているので、その区分に従っちゃうと、しょせん、この今出てくる結果──結果そのものは私のような素人には非常におもしろいし、いいんですけれども、最初の定義のところで、結果を推定できるような形で定義していないかということがちょっと気になるので、そこだけ。

【国総研】  ご指摘のとおり、結果的にはそういう形に近い結果になっているということです。

【委員】  はい。

【委員】  幾つか伺いたいのですが、一つは、かなり細かい単位での人口推計をされますね。特に、社会増減については推計がかなり難しいのではないかと思うんですね。これは今でも比較的、技術的な課題についていろいろな研究者がやっていると思うんですが、実際にどういうふうにされたのかというのをちょっと伺いたいんですね。

 それから、もう一つは、大きく2つのテーマをお話しになったのですが、1つ目のテーマの結果をどういうふうに2つ目のテーマに生かしているかがちょっとわからなかったんですね。独立と考えれば、別にそれはそれで理解できるのですが、やっぱりせっかく2つやったんだから何か関係あるんだと思うんですが、そこがちょっとわからなかった。

 それから最後のやつに行って、結局、住民の費用の一部を行政が負担しても、まだ両方プラスじゃないかというロジックで行政が費用負担を少しかぶるという仕組みというのが、ほんとうに適切なんだろうかという考え方もあり得ると思うんですね。つまり行政としては、最も効率的なわけですね。公園だけ整備して、なおかつ地域もそれでよくなるわけですから。しかも、社会的な便益が全くどっちも同じなんですよね。行政が何かやっているんだから、もうちょっと社会的便益も増えるっていうんだったら、それは私も理解するんですけど、全く増えないで分配だけを変えるというのはね、実際に正当化されるかというと、これはちょっと疑問だと思うんですね。

 ちょっとその3つを。

【国総研】  1点目の人口・世帯の推計方法でございますが、最小の単位は町丁目になりますが、町丁目単位での推計は非常にデータの暴れが大きくて適切でないため、原則、「町」単位の推計単位区をつくりまして、その推計単位区を、過去の人口の増減トレンドから人口増加地区、やや減少地区、減少地区に3区分しまして、その3区分ごとに社会移動率を求めました。過去の人口増減トレンドが今後も続くとの仮定のもと、過去のトレンドが人口増加地区には人口増加地区全体の社会移動率の平均値を、人口減少地区には人口減少地区全体の社会移動率の平均値を適用して推計しました。

 そうしますと、例えば福井市は、人口27万人程度ですが、人口増加地区、やや減少地区、減少地区とも9万人平均の3つの地区に分かれましたので、9万人レベルの都市について市全体の社会移動率を用いて推計しているのと同じ程度の精度で推計できているのではないかと考えております。

 なお、推計の枠組みの詳細についてはお手元の参考資料1に示しています。

 2点目の2つの研究テーマの関連についてですが、本研究の基本的考え方としまして、郊外住宅地の再生・再編を進める上では、都市全体の居住地立地のあり方についてのマスタープランを考えた上で、個々の住宅地をどのように再生していくのかという枠組みで捉える必要があると認識としています。本研究では、都市全体の居住地立地のあるべき枠組みを考える上で、行政コストに着眼しまして、行政コストの関係から見れば、都市全体をどのような居住地立地に再生・再編していく必要があるのかをマクロ的に評価する方法論を提示したうえで、個々の住宅地を具体的に再生する方法や費用便益の評価手法について検討しています。

 なお、少しご説明を省略いたしましたが、提案した「郊外住宅地再生計画提案制度」の枠組みにおいて、行政が地域住民主体の再生を支援する場合に費用便益比を設定する必要がありますが、この費用便益比の設定にあたっては、都市全域の行政コスト等を踏まえながら、すなわち、住宅地の立地等を考慮しながら費用便益を設定していく必要があるのではないかと考えております。

 3点目についてですが、行政にとっての費用便益比がどの程度であれば、行政にとって再生の支援のインセンティブになるのかについては、公共団体等にもヒアリングしながら整理していく必要があるかもしれませんが、少なくともケーススタディにおいて、行政が一定の支援をしたとしても費用便益比は1を遙かに超えています。行政の支援がない場合は、地域住民の自助努力のみによる再生がそもそも実現するとは限らず、その場合は行政にとっては想定している便益は生じませんので、本ケーススタディの結果は行政にとっても一定の支援の根拠になるのではと思っております。

【委員】  ここでいう行政というのはどういう単位なのでしょうか。行政の効率化というのであれば、国というのが一番わかりやすいですし、県であればまだいいですけれども、何となく市町村単位でやっているようなので気になります。基本的には大きな単位でやるべきだし、その辺がちょっと心配です。要は、土地の市場に特定の市町村が介入して歪めているわけですよね。その便益の帰着先が特定の住宅地の土地所有者になるのだとすれば、○○先生が言うように分配を変えているだけで、むしろ全体の効率化を抑えているかもしれない。その辺、やはりきちんと答えてもらわないと、この研究の評価はできないと思うのです。

【国総研】  ここで想定してる行政というのは市町村を想定しています。基本的に郊外住宅地を放置することによって直接的に影響をこうむるのは、基礎自治体である市町村であり、また、住まい・まちづくりの分野では、地域住宅交付金やまちづくり交付金の活用など、地域住民に一番身近な基礎自治体が主体的に施策を講じる方向にシフトしています。 

 また、本研究は、放置しておけば外部不経済を発生させる住宅地について、行政が一定の支援を行うことで、地域住民の主体による再生を誘導又は後押しすることを基本スタンスとしていますので、市場を歪めているのではないと考えています。

【委員】  本来は市町村合併のテーマですよね。

【国総研】  市町村合併が郊外住宅地の再生にどうつながるのかは、整理させていただきます。

【委員】  ちょっと助け船。

【委員】  自分の質問に自分で答えるのも変ですが、おそらく実際に行政がいろいろな支援をすると、例えば、より高所得の人が入ってくるとか、そういう変化があるはずなんですけれども、今はモデルにそれが入っていないだけなんですよね。だから、そこのファクターがあれば、私はもっと便益が増えるというふうになると思うんですよね。おそらくそういうふうに答えたほうがよかったんじゃないかなと。

【国総研】  今回対象にしたCI団地に隣接して、特定土地区画整理地区がありまして、数年前に供用開始されたばかりで、若年ファミリー世帯を中心に新しい人口がどんどん入ってきています。こうした状況において、CI団地に人をどんどん呼び込む再生というのは現時点では難しいと考えておりまして、社会的転出をできるだけ軽減する再生のシナリオを設定しましたのでこういう結果になっております。

 ご指摘のように、想定的に少ない再生費用でもって人を呼び込む再生シナリオが成り立つ住宅地であれば、費用便益比が非常に大きくなるという結果になってくると思います。(→説明では省略しましたが、再生の第2ステップとして、隣接する特定土地区画整理地区を含めた地域全体において、住宅属性・規模と世帯規模のミスマッチを解消するための住み替えを誘導する中で、CI団地に世帯を呼び込む再生を想定しており、この場合は、便益が増えることになります。)

しかし、行政支援があることで、予想以上の人口流入が生じるのではないかという点については、行政の支援内容によってはそうしたことも起こると思われますが、大きな便益に結びつくような人口流入を生むためには、住宅地によっては行政支出自体も大きくなり、費用便益比はむしろ小さくなってしまうこともあろうかと思います。

【主査】  いかがでございましょうか。どうぞ、○○先生。

【委員】  この研究は、全体としては、私、大変意義のある研究だというふうに思っています。今の問題にも関係するのですけれども、郊外という概念が一本でとらえられているために、対策のほうも郊外のほうはどうするんだということになってしまっていて、なかなか説明がうまくいかないという可能性があります。この研究が出てきた背景は、リモートサバーブの問題が非常に深刻化し、特に大都市圏の郊外問題がクローズアップされたということがあったと思います。特に大都市圏の郊外の概念とを幾つかに分けて考えることによって、今、議論になったような事柄に対応でき、再生を促進すべきところと、必ずしもそうはいえないところというのが出てくるように思うんですが、そのあたりはいかがでしょうか。

【国総研】  郊外の概念につきましては、ご指摘のとおり、地方公共団体の性格によって全く違うという認識を持っています。このため、本研究は、各地方公共団体が、それぞれの性格を踏まえ、行政コスト等の関係から自ら市全域の中のこのエリアは積極的な再生を誘導するために投資をする、このエリアはあまり投資をしないというように評価できるための判断材料を提供することをねらいとしたということになります。

【委員】  中心市街地と郊外という構造になっているだけであればそうなんですが、実際の都市構造はもう少し複雑で、そういう単純な都心・郊外という形じゃないわけですね。そこで、今のような類型化というのが必要になってくるんじゃないかと思っているんですよね。

【国総研】  ご指摘の点は重々理解しております。研究対象とした福井市と木更津市のうち、福井市は地方県庁所在都市であるため、比較的独立型の中心・郊外という関係になっていると思いますが、木更津市の場合は、首都圏の母都市の影響があります。特に、ケーススタディを行った木更津市のCI団地は、分譲当初は東京、横浜の通勤、いわゆるベッドタウンとして開発されましたが、最近では、大都市圏市場からは撤退し、完全に地域の住宅市場でしか成立し得ない住宅地に変化しています。このため、CI団地は、母都市から積極的に人を呼び込むような再生を志向せず、地域の市場の中で魅力を得ていく再生を検討しています。こうした住宅市場の圏域構造の中で、再生を位置づける必要性については理解しております。

【委員】  今おっしゃったようなことは、必ずしもネガティブにとらえるのではなく、地域構造が変わってきていること自体を郊外の再生の可能性としてとらえる考え方が生まれてきています。そういう考え方が、この分析とかみあって説明ができるようになるといいなと思っております。

【国総研】  少なくとも大都市圏の近郊外、遠郊外、地方都市とでは、違う住宅市場構造の中で郊外の再生を位置づけられますので、最終報告書はそうした観点から整理をしたいと思います。

【主査】  いかがでございましょうか。

【委員】  よろしいでしょうか。

【主査】  どうぞ。

【委員】  第1の課題というか、緑色になっています将来コストの推計評価というのは、これは非常に優れた成果だと思います。それで、むしろこれは国総研という大きな組織全体として、これで出ている推計の意味合いというものをむしろそしゃくするというか、意義を考え、特にインフラの維持・保全をどうしていくのかという戦略、あるいは都市構造そのものをどうするのかという戦略等を含めた大事なことだと思います。この研究会の中だけにとどめるべきものではないのではないかというように感想を持ちます。

 第2の課題について、私は、そういう意味ではやはりこれは、意地悪な言い方をすると、日本全体の郊外はみんなこれをやり始めても、そんなに財源がないわけでありますので、ある意味では選択と集中にならざるを得ないということを暗に言っているやにも聞こえますが、やはり選択によっては第1の課題から考えれば、首長さんの中には、もっとドラスチックにすべて、ここで言っているところの中心市街地にむしろ都市機能を再集約するなんていうことを思考される方が、町の構造によってはあり得るのですけれども、そういったことがないままに何となく郊外のほうに投資し続けるように誤解してしまうようにも思えるところでありますが、その点、多少、ことわりが必要だろうと思います。

【国総研】  まさにご指摘いただいたように、郊外のすべての住宅地を積極的に再生していくというスタンスではなく、地方公共団体が将来の都市の人口構造、行政コスト等を評価し、再生を図っていくべき郊外については、支援をしてでも地域住民による再生を誘導していくことが必要であると考えています。そうした再生を図るべき郊外の判断材料や地域住民の再生を支援する判断材料や再生の方法論について、行政コストや地域住民の負担コストという観点から提示することを目的として実施した研究でございます。

 なお、最後のページに残された課題として書いておりますが、再生を図っていくべき郊外の判断にあたっては、どのような都市構造が適切なのかをコストだけでなくより多角的に捉える必要があると考えており、そうした都市構造の評価手法の検討については、今年度から実施する継続の研究課題のテーマとしています。

【主査】  私のほうから一言お聞きします。このタイトルが「人口減少社会に対応した」とあるんですけれども、ほとんどの市区町村は、地方中核都市含めて人口が減少している。それは全国平均の人口減少率以上に減っているんじゃないですか。社会経済構造の変化でね。ですから、このタイトルは人口減少社会だけじゃなくて、もう少しマクロな産業経済、そういったものも含めた研究というふうに理解してよろしいですか。そういうものの影響も含めた、いわゆる地方の都市の人口減少問題の研究であると。

【国総研】  正直、そこまで大きなことを考えて研究をスタートをしたわけではございません。今後の社会を言い表す言葉として人口減少社会という言葉を用いたということであり、あくまでも人口が減り、高齢化の進展により世帯が減り、居住密度が低くなりながら郊外が伸びていくような都市構造の中で、郊外住宅地をどう再生していくべきかをねらいにしたところでございます。

【主査】  ありがとうございます。

 先生方、よろしゅうございますか。じゃあ、簡単にお願いします。大体時間になっていますので。

【委員】  簡単に。この再生を行うと、どのくらい再生された住宅地が継続して有効に使われるというようにお考えでしょうか。

【国総研】  正直、ちょっと数はわからないのですが、幾つか……。

【委員】  数でなくて年数で。

【国総研】  期間ですか。このスタディーでは20年を再生の期間として設定しています。

【国総研】  いや、だから、それが終わった後、何年ぐらいもつと思うかと。

【国総研】  住宅地の性格や、再生の内容によってさまざまですので、一般論として何円くらい持つかについてお答えするのは難しいかと思います。

(→説明では省略しましたが、ケーススタディで提示した再生についていえば、居住者の社会的転出の防止を目的とした再生であるため、住宅地の持続性という観点からは、将来的に世帯を呼び込むような再生が必要となります。前述したように、第2ステップとして、隣接する特定土地区画整理地区を含めた地域全体において、住宅属性・規模と世帯規模のミスマッチを解消するための住み替えを誘導する中で、CI団地に世帯を呼び込む再生を想定していますが、こうした再生の必要とするタイミングについては、第1ステップの再生期間終了後である20年後に評価することになると考えています。)

【主査】  まだご意見もあるかと思いますが、時間が来ておりますので、この辺でこの課題の審議を終了します。先生方、シートにお書き込み願います。事務局、集めてください。

(評価シート記入)

【主査】  ありがとうございます。

 上のほうが、「おおむね適切だった」が7票ですか。3が3票、下が7票と3票ですか。さっきよりも「適切だった」が少ないですね。まあ、上も下も2でよろしゅうございますか。「おおむね適切だった」と。○○先生や○○先生からいろいろ基本的なご指摘もございましたので、今後ともまたチャンスがあったら詰めていただきたいと思います。

 それでは、先生方、上も下も2ということでよろしゅうございますか。

 どうもありがとうございました。

↑ページTOPに戻る



          〈事後評価課題B「住宅の省エネルギー性能向上支援技術に関する研究」〉

【主査】 それでは、3番目のテーマ「住宅の省エネルギー性能向上支援技術に関する研究」の説明をお願いします。

【国総研】  建築研究部の○○でございます。この7月に突然プロジェクトリーダーが私になってしまいまして、私、環境の専門じゃないんですけれども、テーマは住宅の省エネルギー性能向上支援技術ということなんですけれども、既存住宅の省エネを絶対量として省エネ化しようと、そのためにはハードな実験等を行いながらデータを蓄積しましょうと、そういうものでございます。この中では予算を使って、実際に20年ほど前の仕様の建物、住宅をつくって、それを相手にしながら実験を重ねたというようなものでございます。具体的な中身については○○のほうから説明させていただきます。

【国総研】  ○○でございます。よろしくお願いいたします。

 研究の概要といたしましては、CO排出量でございますけれども、民生部門、家庭分野におきまして、国全体の13%を占めるという大きな比率となっておりまして、その中でも高い増加率を示すというところでございます。

 従来、平成13年から16年の自律循環総プロと言われている総プロで、新築をメーンの対象としまして省エネルギー対策の検討を進めさせていただいておりましたけれども、本研究では既存住宅に拡張して研究開発を行ってまいりましたということになります。

 目標といたしましては、新築及び既築の住宅を対象として、実効性の高い省エネルギー技術を開発するということで、目標の値としましては居住時のCO排出量50%削減達成という目標を立てさせていただきまして、それに向けて、それら最適な活用方法、あとは住宅の断熱設備システムについて体系的に知見を整理したということになります。

 目的といたしましては、既存住宅は4,700万戸ストックがあると言われておりまして、この部分のCO排出量を削減するということで、4項目の検討をさせていただいております。@としまして、既存住宅を対象とした躯体断熱及び設備改修技術の簡易化ということをしております。Aといたしまして、既存住宅を対象とした省エネルギー性能診断技術の開発と、この部分を進めております。Bといたしまして居住者のライフスタイルに応じた省エネルギー設備計画の最適化技術の開発と。こちら、実験を行っておりまして、前の総プロから引き続いて実験を行っているということでございます。Cといたしまして、住宅建築のための新たな省エネルギー要素技術の開発ということで、本日の説明では@Aを中心とさせていただきたいと思っております。

 まず初めに、成果の活用はこのようになっておりますということを示させていただきますけれども、@A、既存住宅の改修についての部分でございますが、成果といたしましては、平成20年の4月に施行されました戸建住宅断熱改修のための所得税または固定資産税の軽減措置、一般には省エネ改修促進税制などと言われておりますけれども、その中に成果を反映させたということになります。こちらは既に告示が出ております。

 2番目としましては、来年4月に施行予定の住宅省エネルギー基準の告示の簡略化に向けた資料として成果を活用したいと思っております。

 それから3番目といたしまして、本年度中をめどに、今、編集を行っておりますけれども、省エネルギーの改修設計施工ガイドラインというものを作成して、実務者に向けて提供していきたいと思っております。

 それから、BCについての成果でございますけれども、BCは設備を中心に実証実験を行った結果ということになりますけれども、その部分は4番目といたしまして、こちらも次年度、平成21年4月に施行予定の、建売住宅事業者を対象とする、一般に「トップランナー基準」という言い方をしておりますけれども、その策定に成果を反映しつつ、今、作業を進めているということでございます。こちらは、現在、住宅の断熱を中心に評価していたものに設備の省エネルギー性を加味していくということを検討しているところでございます。

 それから5番目といたしまして、こちらのガイドライン以前の自律循環総プロのときに温暖地域版ということでガイドラインを作成させていただいているのですけれども、その他地域版ということで、上昇地域版、沖縄ですとか南九州ですとか、そういったところを対象にしたもの、あとは準寒冷地版といたしまして北東北から北関東あたりまでを対象としていると。その地域版を完成させて実務者に提供するということを考えてございます。

 ここからは各検討の中身になってまいりますけれども、まず@の既存住宅を対象とした躯体断熱及び設備改修技術の簡易化という部分でございまして、こちらは写真のような住宅を建てさせていただきまして、こちらに各種断熱の施工方法を適用して、その施工性を検証しつつ、なおかつそれによって得られる省エネルギー性を検証すると、そういうことをさせていただいております。

 こちらは住宅の正面でございますけれども、おおむね20年程度前の軸組み在来工法の住宅を想定して建築をしておりまして、20年前の住宅に断熱改修をしたときの効果をこの実験で検証したということになります。

 幾つか、断熱改修のメニューを設定させていただきまして、それぞれについて施工性ですとか、あとは性能アップの効果、コストの部分について検証させていただいているということになります。その中から、幾つかやった中からピックアップしてこの表に書いてございますけれども、部位ごとに一番上の枠から@、Aとありますけれども、通気どめという工法がございまして、こちらの検討をしております。それから下のB、床に断熱をすると、そういうメニューを用意してございます。それからCといたしまして外壁に内装材の下地として、内側から断熱材を張りつける工法を試しているというのが4番目です。D、Eといたしまして、天井に断熱材を入れると。Fといたしまして開口部の改修をすると。このようなメニューを想定してやっております。

 こちら、気流どめの施工実験の状況でございますけれども、こちらの在来軸組みのときに壁にあるすき間に断熱材を折り曲げたような形で、気流どめという方法で入れることで、壁体内の通気を抑制し、その結果、断熱性が上がると。こちらは非常に簡易で、なおかつ低コストでできるということで効果を見込んでいたという、有望ではないかというふうに考えて実験を行ったということになります。こちらは施工性の実験といたしましては、延べ9人作業で69メートルの施工部に対して3時間55分で完了と、こういうような、実際に施工を行って、その結果、施工性がどれぐらいよかったかということを検討しているということであります。

 こちらは床下の断熱の状況でございますが、床下にこのようにもぐり込んで、グラスウールを張りつけて、こちらはバンド状の支持を、こちらは試行的にやっているんですけれども、どうすれば施工性がいいかということを考えつつ、技術の検討をしているということでございます。こちらは床下35平米、5時間20分と、こういう検討をしております。

 こちら、開口部を改修するというメニューでございますが、窓のサッシを外してペアガラスを入れまして、アタッチメントをつけて入れて改修すると。こちらは非常に軽微な作業で断熱性が大幅にアップするということで効果を見込んでございます。

 こういう@からGのような断熱メニューを作業いたしまして、作業人数ですとか作業率ですとか、労務費、材料費、あとは歩掛かりと参考単価と、このような形で施工性とコストの面について、あとは工程、時間がどれぐらいかかるのかということをメニューごとに整理してございます。こちらから、今後の検証課題と書いてありますけれども、手法ごとの歩掛かりをもとに改修工事の参考単価を算出することをやっておりまして、それをガイドラインにどう反映させていくかということは今後検証していく必要があると認識しております。

 こちらは、先ほどの住宅のほかに、断熱改修のメニューとダクト式換気を導入するというメニューで改修をした例でございます。そのときに、1階の天井懐に3種換気のファンを設置しているんですけれども、そのときに、どのような利点があり、課題があるかということをまとめているという、このような改修メニューを実際に行ったときに、どういう利点、課題があるかということを検討しているということでございます。

 続きまして2番目といたしまして、省エネルギー性能診断技術の開発ということで、断熱改修をする際にその住宅の現況がどの程度の断熱レベルで、どのようなメニューを設定すればいいかということは、やはり性能診断を行っていく必要があると考えております。その中で行ったものといたしましては3つございまして、一番簡単な方法としては図面を見るということ。あとは、目視によって躯体の中身を検討すること。天井からのぞくですとか、あとはスイッチボックスを外して中を確認するとか、そういった方法で現状を判断する方法というのを提案しておりまして、こちらのメニューは、先ほどの省エネ改修促進税制のほうのメニューに一部取り込まれていると認識しております。

 それからまた、実測する方法として比較的安価な測定機を用いて部位ごとの断熱性能、実測方法を開発しているということでございます。こちらが測定システムになるんですけれども、SAT計と呼ばれる温度計に類するものですが、温度計を2つと、あとは熱流計を使って基本的な考え方としては、このようなシステムで検討しているところでございます。実際の実験を行いまして、その精度がどの程度あるのかということを確認しております。こちらは熱流板の表面に断熱材を張りつけることで、性能が上がるということは確認できているのですけれども、まだ現状といたしましては、この方法を現場に展開するところまで至っておりませんで、こういう測定方法を検討して確認しているということでございます。

 それから、3番目といたしまして、こちらは設備側の話になってまいりますけれども、設備の実証実験を行う際に、居住者のライフスタイルを考えつつ実証実験を行うという方法を国総研の中で行っておりまして、その部分の説明をさせていただきたいと思います。

 エネルギー効率をはかる際に、居住者の行動、何時に帰ってきて何時に料理をすると、そういう一般的なスケジュールを作成して、そのスケジュールに沿って機械的に室内の環境を模擬して、それで実証実験を行うという方法を行っているのですけれども、その実証実験と、あとはまた別途、人工機構室における計測をあわせて検討しているということでございます。

 こちらは床暖房の実働効率の結果の一例でございますが、床暖房をするときに熱源が部分負荷状態──部分負荷というのは、フルで動いていない状況ということになりますが、そのときの効率がどのように落ちるのかということを実験的に検討しているという結果でございます。

 こちらはエアコンでございますけれども、エアコンも温度と、あと負荷態によって効率が非常に大きく変わってきますので、こちらを検討しているということでございます。

 それから、こちらは給湯設備でございますが、給湯設備は貯湯式の場合、特にお湯の使い方によって効率が変わるということもございまして、従前は6日間の試験でやっていたのですけれども、学習に影響があるということで、30日間検討しているというような実験を行っております。効率といたしましては、瞬間式は消費量の変化に影響を受けにくいですが、貯湯式は湯の消費量が少ないと効率が低下するといったことを確認してございます。

 こちらはその実験住戸でございますけれども、このような人体の発熱を模擬したりして実験しております。通風の効果というものを検討しておりまして、通風によって、昨年の実験では4割減、6割弱減という、そういったエアコンの電力消費が削減できるという効果を確認しております。

 ほかに、新たな省エネルギー要素技術の開発ということで、通風に関する検討を中心に行っておりまして、風洞実験を行って、風圧係数のデータの整理を行うというような作業を進めております。

 ということで、これまで説明させていただいた結果、一番初めのところに戻りますけれども、1、2、3、4、5と、このような成果を出しているということでございます。

 以上でございます。

【主査】  ありがとうございます。

 それでは、委員の先生方、ご意見、ご質問をお願いします。

【委員】  簡単に言いますが2点ありまして、1点は省エネのための改修のいろいろなメニューが提起されたと。これは重要な成果だと思います。問題は、それをパブリックがいかに使って、施策としての実効性を上げるかということ。いずれそうなりますね。つまり、耐震改修でもなかなか進まないわけで、省エネ、エアコンを使えばいいじゃないかと思っている人が多いので、それをどうやって進めていくかという、それが1点です。

 もう一つは、あまり関係ないかもしれないのですが、後半の省エネ診断の結果として何か単一のわかりやすい数字で、つまり耐震診断のIs値のような、ある1個の数字で、その省エネ度をあらわす、そういうものを導入するとパブリックはわかりやすいと思うのですが。あなたのビルは省エネ率0.3、省エネ仕様0.3。これは0.6に対して相当劣っていますよとか、あるいはいいですよとか、そういう観点があればどうかなと。

 以上です。

【国総研】  ご意見ありがとうございます。

 1点目でございますけれども、メニューについてはこちらで比較的整理できたと考えております。これをパブリックに普及するに当たって促進するという意味で、まず1つ目の措置としましては、省エネ改修の促進税制というものを作成させていただいておりますけれども、こちらで十分かというと、まだなかなか難しいのかなというふうにも思っております。そちらについてまた今後検討させていただきたいと思います。

 2番目の点につきましては、レーティングの話になると思いますけれども、レーティングについては、まだ省エネ診断の結果をレーティングするというところまで検討の土台に載っておりませんけれども、省エネ改修ではないのですけれども、こちらの建て売り事業者の省エネ基準のほう、こちらのほうにレーティングを入れてはどうかという話を今、進めておりまして、そちらとあわせて歩調を進めて断熱改修のほうについても検討できればいいかなと考えております。

 以上でございます。

【主査】  ○○先生のご指摘、大変ごもっともだと思います、この研究、大変に地道にたくさんの実験をやっておられるんですけれども、こういうの、僕は全建連とか住団連とか、そういうところの蓄積も参考にして進めることが大事で、国総研としては、今、○○先生がご指摘していただいたような内容の研究を進めていただけると、国土交通行政に対して、もっと貢献効果が上がるんじゃないかと思うんです。

【委員】  必ずしも専門ではないのですが、2つお聞きしたいのですけれども、まず最初のほうで、省エネ性能と技術との関係についてちょっと私、わからなかったんですけれども、それは研究の範囲外なのか、あるいは範囲内とするとどうだったのかというのをちょっと教えていただきたいのと、それからもう一つは、これ、新しく20年前の仕様でつくって、それをすぐ改修しているわけですよね。一方で、こういうものというのはかなり経年変化というのが重要で、そこの部分は、もちろん今回の実験では対応できていないのですけれども、今回、小さいんだったら無視していいんだと思うんですね。大きいんだとすると、やっぱりそれも結構重要なので、その点を少し考慮する必要があるかなと思ったのですが、それはいかがでしょうか。

【国総研】  1点目のご質問でちょっとわからなかったところがあるんですけれども、省エネ……もう1回お願いしてよろしいでしょうか。

【委員】  省エネのためのいろいろな施工のやり方というのを示しておられるんですが、例えばどれだけの人日が必要だったかとか、そういうのはわかったんですけれども、それがどのぐらいの効果があるのかということとの関係が、ちょっとわからなかったんですけれども。

【国総研】  すみません、本日の発表からはちょっと時間の都合もあって外させていただいておりますけれども、こちらのメニューの中で、施工性実験は数多くこなすために短時間のうちに、1日とか2日でできる実験ですので、入れかえ入れかえやっておりまして、その中で有望と思われる技術については、夏と冬に、その実験をもう1回行って、10日間、20日間という期間を区切って、部屋の中の温度ですとか、機密性の測定、C値という評価の方法としてあるんですけれども、それとあとは断熱性の評価、Q値という評価ですね、そちらの評価の実験を別途行っておりまして、具体的には……。

【委員】  あ、いいです。細かくはいいです。やっておられるんですね。

【国総研】  はい。そういう実験を、効果という意味の抑えるという意味では、全部は時間の都合もあってできていないんですが、有望な技術についてやっております。

 2点目につきましては劣化の話ですけれども、こちら、新築で建てておりますので、やはり1年目と2年目で若干、機密性を中心に性能が変わっていると。それはやはり建ててから材木がだんだん収縮してきているということがございまして、その部分はまだ現状では、この住宅について確認はとれていない部分もありますので、継続して測定していくことで経年変化についても確認できるかなというふうには考えております。

【委員】  すみません、2つばかりご質問ですが、1つ目は先ほどの質問とほとんど同じで、断熱がすべて善という方向で大体何となくまとめられているんだけれども、それは例えばBの通風でエネルギー消費ががんと下がると言っているということと、ちょっと相反していますね。その点についてどういうふうにまとめていくつもりなのかということが知りたい。

 同じような質問ですけれども、Bでライフスタイルとエネルギー消費ということをやっておられて、私はきのうの夜、家主ががんがんクーラーかけているところで、クーラーのある部屋でクーラーのある部屋でクーラーをかけずに窓を開けて寝るという、ライフスタイルを死ぬ思いで守っているんだけど、そういうライフスタイルは持っている人ごとに、ある意味では指標を出さなきゃいけない。○○先生と逆でね、実はライフスタイルごとに指標を出してもらわないと、結局、標準的にクーラーを使っちゃう人に対してだけ、こうやったら省エネなんだとやられると、実はクーラーを使わないということをベースにしている人にとっては、すごく指標がずれてくるんですけれども、そういう点についてはどうお考えなのか。

【国総研】  その点についてはご指摘のとおりです。2番目のほうからさせていただきますけれども、標準的なスケジュールというものを設定させていただいておりますけれども、その中に、時間の都合もありまして、やはり標準的な、一番一般的だと思われる家族構成、標準なスケジュールと、そういうものを設定させていただいておりまして、実験を進めさせていただいております。

 ただ、やはりおっしゃられるとおり、スケジュールですとか家族構成は変わってきておりますので、2人世帯、若年ですと高齢者ですとか、あとは高齢者が居住した4人の、3世代の、そういった設定をして、そちらの実験はまだこれからというような段取りになっているのですけれども、そういう実験を検討してございます。

 2点目の通風と断熱との絡みでございますけれども、通風は通風でこのような効果が出ている、断熱についてもこのような効果が出ているというところで、それぞれが相乗してよくなったり、悪くなったりということが当然あるんですけれども、その部分についても、こちらの実証実験のほうで、こちら、断熱はあまり検討できていないのですけれども、その他の機具ですね、給湯ですとか暖冷房ですとか通風ですとか、その交互作用についての検討はこちらの実験等で今現在、進めているところということでございます。

【委員】  今のお話とも関連するんですが、私は、課題の3番、スライドの20から28まである課題の成果は大変意義があると思うんですね。特に、スライドの25番に模式図で書いてありますけれども、このあたり、ほんとうは国交省頑張られたほうがいいと思うんですが、要は経産省、環境省とも絡んでくる部分ですけれども、COPが幾つだから単純に危機変えればいいというような乱暴な議論がある中で、こういうのはやっぱりデータできちんと、必ずしもCOPは一定ではなくて負荷によって変動するんだと、相互作用もあるんだということを、こういった実験をベースにまとめられた研究は大変意義が高いと思いますので、これはやはりそういった短絡的に思っている人たちに対して、この成果というのはきちんと広くされていくべきだし、そうすることが、変な言い方ですけれども、やはり国交省らしいし、国交省がやらないとだれも、そういう足し算式の省エネ対策を言い続けているだけということになると思うんですね。

 1つ気になったのは、平均的な人を想定して測定されているんですけれども、例えば、今の○○先生のお話とも絡むんですけれども、どのように、このある特定の居住者が使っているかということの使用履歴とか、あるいはインドアのセンシングしたものを踏まえて制御も変えていくような、レスポンシブルなプロセス、それぞれ居住者の特性にあわせた制御をしていくというところまでは、この研究の射程に入っているのかどうか。それができると、最後の40%削減というのがかなり現実味を持ってくると思うんですが、そこのところはどうなんでしょうか。

【国総研】  実験の設定条件として冷房設定温度を上げるとか、給湯量を増やすとか、そういう条件を設定しておりまして、それが人のライフスタイルを反映させたものだというふうに考えて分析を進めておりますけれども。

【委員】  分析したものを、データを読み取って、そのデータを解析した結果を今度は制御したほうに返してあげるというんでしょうか、家電メーカーのヘムスというのはもっと機器レベルでやっていますけれども、むしろ今のスライドをベースに、総合的に建築全体で個別というか、カスタマイズ制御ができるようなところは研究の射程に入っていらっしゃるんですか。

【国総研】  まだそれは射程に入っていないというのが実態です。今のところは測定ものとしてこういう制御ができるという設備を整えているという、そういうことでございます。

【委員】  非住宅関係で、私もこのまねごとをビル関係でやっています。また機会を改めていろいろと情報を交換させていただけたらと思います。

【国総研】  よろしくお願いいたします。

【主査】  ほかにございませんか。○○先生どうぞ。

【委員】  すみません。技術的なことですけど、住宅の省エネ診断技術というのがありますが、最終的には改修等をされた後の空間の断熱性能というのが重要だと思いますが、この診断技術はどこまで適用できるんでしょうか。伺った範囲では、部材が直列的につながっている断面については有効そうだとわかりますが、たとえば壁でも実際にはいろいろな平面構成があると思います。開口部のある壁ない壁、中が充填された部分と充填物のない部分が混在している壁などもあり、実際には異なる要素が並列している壁の断熱性能の評価の方が重要だと思いますが、そういう場合はどうやって最終的に断熱性能が確保できているかどうかを評価するのでしょうか。

【国総研】  これについては、1つ壁をやってその部屋の評価をするというものではなく、やはり部位ごとに行っていく必要があるというふうに認識しております。窓は窓で、壁については隅角部に近いところ、壁の中央と、そういったところに評価するに当たってなかなか手間とコストの話になってくるので、実際の診断でそこまでできるかというところにつながってくるところがあって難しいところはあると思うんですけれども、基本的な考え方としては部位ごとに、やはり熱的性能の劣る部分、劣らない部分というところでやって面積比を掛け合わせるような、そういうような想定で今のところ考えてございます。

【委員】  考えていらっしゃるというのは、その方法を適用して、空間としての断熱性能が確保できているかどうかというところまで見られたということでしょうか。

【国総研】  実験レベルでは見ております。

【委員】  それで、その方法が妥当であったということを検証されたと理解してよろしいでしょうか。

【国総研】  ただ、それが実際の運用にかなうかどうかというのは、またちょっと検討が必要かなというところはあります。

【主査】  今の指摘に関連して発言します。全国には既存住宅は4,700万戸もあります。例えば簡易な耐震診断のようにほんとうにさらっと、1軒か半日ぐらいでできるような方法を社会は望んでいると思うんです。ここで示されたような正確で手間のかかる方法を幾ら進めても現場では使いにくい。実験室で1軒の建物を対象にしているなら大変結構なんです。しかし、この技術を幅広く適用したいのですが、その適用可能性のあたりがどうか大変疑問に思うんです。いかがでございましょうか。

【国総研】  ご指摘のとおりというところもあります。診断技術で手がけたところもなかなか難しいところもございまして、先生のおっしゃられるように、半日で終わるような診断技術というものが求められると思うんですけれども、なかなかそこまで至っていないというのが実態でございます。

【委員】  そういう意味では半日でできそうなことと、それから1か月ぐらいかけてやるやつの相関を見てみるとか、ばらつきはどのぐらい見るのかとか、回帰分析的なことをしてみてどれだけ予測できるかとか、そういうのをやればと思うんですけれども。

【国総研】  メニューといたしまして、図面から拾ってくる、あとは目視によって断熱の状況を確認するというようなものを簡易的に行うと。診断士の方がいて、検討するというものを考えてはいるのでございますが、やはり断熱の施工状況がまちまちというところもありまして、先ほどの診断書のこちらのほうとつき合わせるというところまでまだ至っていないという状況です。ただ、先生のおっしゃられるそれは非常に重要だと思いますので、簡易に目視とか、そういった方法でやった方法と、実際に測定したのがどうばらつくのかということは先生のおっしゃられるように非常に重要だと思っております。

【委員】  僕、最後におっしゃったこと、とても大事だと思うんですよ。要は、制度として展開した場合に、中途半端に国総研がどう検査するかよりは、むしろ、例えばエナジーサーティフィケートみたいなものをイメージして2時間なり3時間、あるいは半日で簡易診断した場合と、こういった詳細な評価をした場合にどれぐらいずれてくるのか。要は、実務的には非常にあらっぽくするんだけれども、それがどのぐらい精密にした場合とばらけているのかを明らかにしておくほうが、制度展開するためには非常に有益な資料になろうと思いますので、そこをかなりはっきりプレゼンテーションされたほうがいいんじゃないかなと思います。

【国総研】  ありがとうございます。検討させていただきます。

【主査】  それじゃあ、よろしゅうございますか。おおむね時間は来たようでございます。それでは、先生方、採点をお願いいたします。

(評価シート記入)

【主査】  ありがとうございます。

 以上のとおりでございます。後半のほうは少しばらけていますね。もうちょっとで1になったんだけど、残念です。これですと、やっぱりかわりばえしないんですけれども。上も2、下も2ということで。よろしゅうございますか。先生方の評価結果をぱらぱら見ていますと、傾向として自分のご専門に近いところは辛目の点がつくようでございます。それじゃあ、これ課題も2と2ということで決定したいと思います。どうもありがとうございました。

 ここで5分間休憩させていただきます。

( 休  憩 )

↑ページTOPに戻る

(3)平成21年開始予定研究課題の事前評価

         事前評価課題C「省CO2効果からみたヒートアイランド対策評価に関する研究」〉

【主査】  それでは、先生方、後半戦に入ります。これから事前評価でございます。最初はCの「省CO効果からみたヒートアイランド対策評価に関する研究」です。説明をお願いします。

【国総研】  都市研究部長の○○と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 手違いでパワーポイントの資料がお手元に配付されていないようですが、今、大至急白黒のプリントを用意しておりますので、しばらくはこの画面のほうを見ていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 「省CO効果からみたヒートアイランド対策評価に関する研究」、21年度から23年度までの3年間、総研究費約9,000万円で予定しております。ヒートアイランド問題については皆さんよくご存じのとおり、日本全体の平均気温がこの100年の間に1度ぐらいしか上がっていないのに対して、東京はさらに2度、約3度近くも上がっていると。これによって夏場の昼間の電力消費が限界に近づいているとか、あるいは熱中症が起きやすくなっているとか、あるいは夜、エアコンをつけないで寝る方には、ますます寝苦しい夜になっているとか、いろいろな問題が生じているわけでございますが、これらにつきまして、国総研では平成16年度から総プロで、ヒートアイランド現象を定量的に把握し、その対策の効果をシミュレーションする技術の開発を進めてまいりました。

 この図、ちょっと見えにくくなっておりますが、この辺が東京湾で、この辺が皇居になるんですが、風の強さと向きをあらわしたものです。色が風の強さ、小さい点々で見えているのが実は矢印なんですけれども、風の向きが表現されています。これはもっとクローズアップした部分で、それぞれの通りの温度がどれぐらいになっているのか。濃い赤のほうが温度が高いわけですけれども、こういった状態をスーパーコンピューターである地球シミュレーターの上で再現できるような技術が開発されました。それを多少あらくして、また地域を限定すればパソコン上でもできるという技術を開発しております。

 そういったことを平成16年度から18年度までにやってきたわけですが、総プロでは夏の昼間という限定でやっておりましたものを、夜も含めてどうなのかということについて現在、研究を進めているところです。今回お願いしますものは、さらに夏だけでなく冬も含めて、年間を通じてどうなのか、そのことによって省CO効果からみたヒートアイランド対策をどう評価できるのかということを研究したいと考えております。

 研究の概要をここで一度まとめさせていただきますと、各種ヒートアイランド対策が有するCO効果を定量化することによって、地球温暖化対策の観点からも効果的なヒートアイランド対策のあり方を明らかにすると。成果としては、省CO効果の定量化、それからその観点から見たヒートアイランド対策の評価手法の提案、さらにそのことを実務的に使えるような指針のような形でまとめていきたいと考えております。こういった省CO効果ということに着目する背景といたしましては、国の平成16年に定められましたヒートアイランド対策要綱の中で、地球温暖化対策など関連する分野との連携を図っていくということがうたわれておりますし、さらに17年に定められました地球温暖化・ヒートアイランド対策モデル地域という中では、地球温暖化とヒートアイランドを並べて書いて、その改善に資する環境エネルギー対策を投入するといったことがうたわれております。

 ただ、ここで1つ問題がございます。ヒートアイランド現象と地球温暖化現象、その影響する空間、あるいは時間というものに違いがございます。ご承知のとおり、ヒートアイランド現象というのは主に都市の問題であるのに対し、地球温暖化は地球全域の問題であると。ヒートアイランドは主に夏場の問題として認識されておりますが、地球環境、地球温暖化というのは年間を通じての現象として起きている。ここで問題意識は、果たしてヒートアイランド対策として講じたものが、地球温暖化にとってもそのままプラスになるのかどうかということです。

 実は、既往研究を見てみますと、例えば東京23区で夏冬ともに温度が1度上昇した場合、家庭での暖房とか給湯に要するエネルギーの節約効果のほうが大きくて、年間を通じれば、むしろ1度上がったほうがCOの排出量が減るというような既往調査も出ております。そうなれば、ヒートアイランド対策はもうむしろ講じないほうがいいのかということにもなりかねませんが、私たちが考えましたのは、例えば植物は冬には葉っぱを落としたり枯れたりするとか、あるいは風向きも夏と冬とで違う。つまり、一つのヒートアイランド対策を講じたときに、果たして夏と冬と同じように効果が出るのだろうかと。希望的観測をいえば、夏を想定したヒートアイランド対策が冬場に対して悪さをしないといいますか、COを増やす方向に働かないのではないか、そういう予見をもって検討を進めたいと考えております。

 具体的な中身といたしましては、ヒートアイランド対策の年間を通じた熱環境に及ぼす影響の検討、さらにはそれを省COという観点から定量化すること、さらに東京都心部でのケーススタディー、さらにそれを全部まとめる形でのヒートアイランド対策の評価手法を提案したいと思っています。

 もう少し詳しくご説明いたしますと、まず、1点目の、年間を通じた熱環境に及ぼす影響に関する検討でございます。やはりシミュレーターを動かしましてシミュレーションをやっていきたいと。夏だけでなく、冬の夜、昼を通じてやっていきたいと思います。あわせて、屋上緑化、あるいはそのかわりにソーラーパネルを設置した場合にどうかといったことについてデータが不足している部分がございますので、こういった部分も補完的に検討したいと思いますし、さらに風向きという問題につきましては、冬のデータがきちんととれていませんので、補足的に実測調査をしたいと思っております。これを踏まえた上で各種のヒートアイランド対策、緑地の確保とか、地域冷暖房を入れるとか、風の道を考慮した市街地をつくるとか、いろいろございますが、こういったことによってCOをどの程度削減できるのか、あるいはもしかしたらものによっては増えるというものもあるのかもしれませんけれども、年間を通じた省CO効果を定量化したいと考えております。

 そして実際に、東京の都心部を例にとってケーススタディーをしたいと思います。例えばその中では屋上緑化をした場合と、ソーラーパネルを置いた場合とどちらがより効果的かといった検討もできると思います。緑化した場合、暑くなり過ぎるとかえって植物が蒸発散作用を止めたりとか、いろいろな問題もあるようでございます。また、東京の都心部のような場所ですと、日なた、日陰の問題もかなりございます。そういったものも踏まえて一度ケーススタディーをやってみたいと思います。そして、こういった成果を全部まとめる形で、一種の指針のようなものにできればと思っております。スケジュール的には21年度はまず年間を通じた熱環境に及ぼす影響に関する検討から始めまして、先ほど申し上げましたその他の3つを徐々に進めてまいりたいと思います。

 研究体制といたしましては、これは平成16年度にスタートした総プロのときの体制をほぼそのまま継続してもってきたいと思います。いろいろな実験等に関しましては、建築研究所等との連携を図ってまいりますし、また、大学あるいは地方公共団体、これは主に東京都、あるいは東京都の区ですが、そういったところとの連携もしていきたいと思っております。また、施策への反映ということも想定しまして、本省のほうとも連携いたしますし、研究した内容につきましてはウェブサイトを通じて逐次情報公開していきたいと考えております。こういった研究を21年度から23年度にかけて実施したいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【主査】  討論に入る前に、事務局にお聞きします。今回の事前評価は、どういうふうに書くんですか。書き方が前と違うんですけど。

【事務局】  こちらについては、ご意見をその場でおっしゃれなかった部分につきまして補足的にコメントでという形で意見を書いていただければということでございまして、5段階評価は事前評価については予定をいたしておりません。

【主査】  では、総括は結構難しいね、

 討論時間は15分と、ちょっと短うございますので、ご協力をお願いします。それじゃあ、先生方、どうぞご質問、ご意見をお願いします。

【委員】  とてもおもしろい、年間に関してエネルギー消費がどうなるのかと。夏にやった対策が年間どういうふうになってしまうのかということについておやりになるのには非常に興味深いのですが、今、屋上緑化ともう一つ、ソーラーパネルが出ていましたけれども、クールルーフって直感的にやっぱり暖房負荷が増えるなというのがわかるので、そういう意味ではクールルーフをつけると冷房負荷が下がるんだけれども、暖房負荷が上がるというような問題もやっていただけるとおもしろいなと思いますが、いかがでしょうか。

【国総研】  ご指摘ありがとうございます。今、ご指摘いただいた内容につきましても、既往の研究なども参考にして考えさせていただきたいと思います。

【主査】  ほかにはどうでしょうか。じゃあ、○○先生、○○先生の順番でお願いします。

【委員】  今見ているのは1枚ペラのやつなんですけれども、研究内容の中でいろいろな対策が省CO効果、冷暖冷房効果があるかということを定量化するというふうに書いてある。個別のやつはもちろんわかると思うんですけれども、都市というスケールの中で、これをどういうような比率で対策をとるのが効果的かとか、そういうような検討はなされるのでしょうか。

【国総研】  ただいまご指摘いただいた点につきましては、対策を講じようとする場所の地域性の影響を受けると思いますので、それとの関係をどのようにとらえるかというのも課題としてあると思います。そこで、地域の特性を考慮しつつ、それぞれの対策や、それらの組み合わせの比率が、地区、地域にどのような影響・効果を及ぼし得るかということも引き続き検討していきたいと思います。

【主査】  よろしいですか。

【委員】  結構です。

【主査】  ○○先生、お願いします。

【委員】  ご説明を聞きまして理解したのですけれども、課題名が、これはもう事務的に登録しているから変更不可能ですけど、非常にわかりづらいと思うんです。というのは、何が原因で何が結果なのかということなんですけれども、私の理解では、ヒートアイランド現象というのは、マクロには都市におけるエネルギーインテンシティーというか、廃熱量が絶対的に増えていけば、どうしてもこれは不可避の現象だろうというような基本的な理解がありますので、どちらが原因であり、どういう結果があるか非常にわかりづらいところがある。そういう理解をされた方が見ると、このタイトルだけ拝見するとわかりづらいところがあるんですね。ご説明を聞いて理解はいたしましたけれども、今後、研究を展開されていく中でも、ヒートアイランド対策というのは少しわかりづらくて、むしろヒートアイランドを本来はミティゲーションするというか緩和する対策が持っているCO効果というぐらいにご説明いただいたほうがわかりやすいところもありますので、今後展開していく中で、そこの混乱が起きないように気をつけていただけたらと思います。

【国総研】  わかりました。ありがとうございます。

【主査】  先ほど○○先生のご意見はまことにごもっともであります。○○先生のご指摘もごもっともです。例えば夏の最高気温の35度ぐらいがヒートアイランドの影響でで36度くらいになると、東京電力で大体200万キロワット、中規模の原子力発電所が2台分必要だという報告があります。だから、そういう冷房時のピーク負荷のことも考慮すると、研究内容とこのタイトルとの結びつきがもう少しはっきりなりそうなんに思います。。年間を通じるとヒートアイランドが進行したほうが省エネになるという事実にたいして、いまのままではタイトルが弱いですね。○○先生や、説明者自身もおっしゃったように。だからシナリオをもうちょっと練っていただけるとありがたいと思います。

 先生方、いかがでございましょうか。じゃあ、○○先生、どうぞ。

【委員】  最終的な成果として、ヒートアイランド対策の評価ツールの提供というのがありますが、国総研の性格上、なかなか技術自体には踏み込めないかと思うのですが、どんな対策技術がどういう場合には適しているかという道筋でも示していただけると、後々非常に使い勝手がいいかなと思いますが、いかがでしょうか。

【国総研】  ご指摘ありがとうございます。今回のご説明で少々わかりづらい点があったことは恐縮でございます。都市の中で、先ほど○○先生からもご指摘のありましたように、地域によってどのような対策が効果的かを整理しておく必要があると考えております。さらに、地域性や対策の制約条件などに応じて、どのような対策がどのぐらい効果があるのか、例えば自治体の担当者などが対策を検討するときの使い勝手を良くするために、わかりやすい方法で成果を整理して提供できるようにしていきたいと考えております。

【主査】  よろしゅうございますか。どうもありがとうございます。事務局、これからどうするんですか。

【事務局】  一応、集めさせていただいて。

【主査】  集めるんですか。

【事務局】  はい。

(評価シート回収)

【主査】  ○○さん、座長はどういうふうにまとめればいいのでしょうか。。事前評価だからね、やるべきだと言うのか、やめるべきだと言うのか、あるいはもうちょっと検討すべきだとか。評価委員会はどういうコメントを求められているのでしょうか。

【国総研】  大体この方向でやれということなのか、やめろというのももちろんあるのだと思いますけれども、やめろと言うのか、修正してやれと言うのか、やれと言うのかということをまずおおむね皆様のご意見で決めていただいた上で。かなり注文がついていると思いますので、注文は後のほうで事務局がまとめまして先生にご相談の上、本委員会の委員長に報告するというような段取りで考えております。

【主査】  委員の皆様のコメントを熟読する時間はないのでございますが、先ほどからの先生方のご意見を伺っていまして、国総研の過去の実績やこのテーマの重要性を考えますと、省COとヒートアイランドとの結びつけ方についてはいま一度検討していただくということをお願いして、研究としては進めていただくと、そういうことでいかがでございましょうか。よろしゅうございますか。

 では、そういうことで事務局、よろしうございますか。

【事務局】  はい、結構でございます。

【主査】  どうもありがとうございました。

↑ページTOPに戻る




事前評価課題D「小規模建築物の雨水浸入要因とその防止策に関する研究」〉

【主査】 それでは、事前評価2つ目の「小規模建築物の雨水浸入要因とその防止策に関する研究」について、お願いします。

【国総研】  建築研究部の○○と申します。

 本課題は今ご紹介がありましたように、21年度新規というものでございますけれども、一応、研究期間としましては3年間、総研究費の現在の予定ですが、約6,500万ということで考えております。

 研究の概要と目的ということで、大ざっぱに内容なり、何に最終的に利用しようかということを最初に書いておりますけれども、まず対象とする建築物としましては、戸建住宅等を中心に考えたいと。ポイントとしましては雨水浸入のメカニズムや、どういうふうな原因で起こるかということが当然あるのですが、特に劣化が絡んだ場合にどういうふうに起こるかというようなこと、それから、雨水浸入が起こった場合の補修等にかかわる技術資料を蓄積・更新したいということと、将来的にはそういう雨水浸入を防止するための技術基準化に向けての検討を行うということであります。これらの成果につきましては、これは後ほどもう少し詳しく説明いたしますけれども、来年、平成21年10月に住宅瑕疵担保履行法というのが完全施工されますけれども、それの円滑な運用に資するということであります。

 必要性に関しましては、これは申すまでもないことなんですけれども、外装材から雨水が浸入しますと、平常時であっても建物の中が、内装材が特に汚れたり、あるいは見えないところ、特に下地材や構造材が腐朽したり腐食したりするということがあります。さらにこれに地震が起こった場合にどうなるかということでありますけれども、これはよく地震の被害調査によく見られる被害が、右下の写真に載せておりますけれども、外壁が落下しやすくなるということと、脱落して下地材が露出して、火災の関係でいえば類焼の危険性があるというようなことがあります。

 先ほどちょっと申し上げましたけれども、瑕疵という観点から見ますと、この雨水浸入につきましては、平成12年に施行されました品質確保の促進等に関する法律においては、新築の取得契約において雨水の浸入を防止する部分、具体的には屋根でありますとか外壁でありますとか開口部、あとは雨水浸入防止する部分以外には、例えば構造体的な主要な部分というのも当然ありますけれども、それと雨水浸入を防止する部分については、瑕疵担保責任が10年間が義務づけられておりました。しかし、責任があっても業者が倒産等をしますと、責任を果たせないということになりますので、現在は特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律が施行されておりまして、来年の10月に完全施行されることになります。

 内容的には、瑕疵担保責任を業者がきちんと履行するための資力の確保の措置が義務づけられるということになります。内容としましては、保険へ加入するか、または補償金を供託するか、どちらかを選んで入るということが必ず必要になるということであります。このうち、保険の加入につきましては、既にことしの5月に2法人、それから、最近7月に2法人が指定されておりまして、一部は営業も開始されているようです。このうち補償金の供託に関しましては、この法律の中に一部それに該当する部分があるのですけれども、還付について大臣が、例えば売り主の破産等によって責任を負うべき主体が存在しなくなった場合については、補償金の還付に関して専門的、技術的な査定による額の確定を行うということが書かれておりますけれども、国総研におきましては、具体的にこの部分に関して技術的支援を行うということになっております。そういう意味からも、必要性としましては国総研みずからこういうことに関して技術的な資料を蓄積する必要があるということでございます。

 研究の実施体制につきましては、この法律に関係する国土交通省住宅局との調整は当然必要になりますし、また、雨水浸入にかかわる部分につきましては、いろいろな材料の関係でありますとか施工の関係でありますとか、または住宅を供給する団体との関係がいろいろありますので、データ提供を受ける等で共同的に行いたい。それから、独立行政法人建築研究所にも専門の方がいらっしゃいますので連携して研究を進めたいというふうに考えております。

 それから具体的な研究の実施方法でございますけれども、これは大きく項目的に5つ考えております。最初はまず外装工法に関する調査ということで、主に例えば小規模建築で戸建住宅ということを申し上げましたが、木造あるいは鉄骨造というのが中心になると思いますけれども、外装にかかわるいろいろな生産でありますとか材料、それから供給の実況の調査を行う。それから具体的にそういう材料を使ってどういう方法で施工が行われているかというようなことを調査すると。これらにつきましては日本全国同じ指標でやられているとは思いませんので、地域性を考慮して調査を行って、それらの指標を明らかにしたいと考えています。それから2つ目が具体的に雨水浸入がどういうふうに起こっているか、またはそれにかかわる材料なり構成部分がどういうふうに劣化しているかというようなことを調査するということで、実際にそういう建物なりを見つけまして、浸入の状況の調査を行う。場合によってはそこから材料を取り出しまして、そういう構成材の劣化状況の調査を行いたいというふうに考えております。

 それから3番目が雨水浸入防止の性能確認試験ということでございまして、右のほうの写真に絵がありますけれども、簡単にいうと外壁、あるいは部分的な模型のようなものをつくりまして、実際に散水試験をしてどういうふうに浸入が起こるかというようなことを調べたいと考えております。先ほど、浸入する部分ということで屋根、外壁、開口部ということを申し上げましたが、主に開口部を有する外壁、その辺から浸入が多いだろうということ。それから外壁と屋根の接触部位、あるいはバルコニー関係、その周辺部位からも雨水浸入が起こりやすいだろうということで、大きくこの3つの部位に絞って試験をしたいと考えております。

 それから4番目が経時変化等を考慮したということで、これは先ほど劣化等というキーワードを申し上げましたけれども、例えば地震。昨晩のような地震が起きますと、外壁に微小なりの亀裂が生ずるわけですけれども、そういう微小な損傷を受けた外壁の防水性能がどういうふうになるかというようなことを調べる実験。あるいはそれぞれを構成している材料そのものの防水性能、耐久性の試験、さらにはそういう雨水浸入が起こった後の外壁を補修した後の防水制御がどうかというようなことの試験を行いたいと考えております。

 最終的には雨水浸入防止対策技術というものをとりたいと考えております。一応3年間の計画はこういうふうに考えております。

 成果の活用方針につきましては、先ほども申し上げましたけれども、こういう雨水浸入を防止するための対策技術でありますとか、補修に関する技術を整理するということと、将来の技術基準化に向けた検討を行うということで、それらに反映させたいと考えております。

 以上でございます。

【主査】  ありがとうございます。

 それでは、委員の先生方、ご意見、ご質問をお願いいたします。

【委員】  全くの素人なので教えていただきたいのですが、散水試験をするときに風の呼吸みたいなやつですね、そういうのというのは反映させて実験されるんでしょうか。それとも単に横ないし上から水をジャーッとかけるものなんでしょうか。何か違いがあるように素人目には思うんですけれども。

【国総研】  まだそこまで詳しくは検討しておりませんけれども、もしそういうことが原因になりそうだということであれば、そういうことができるような試験を考えたいと思っております。

【主査】  今、ちょうどこの問題が話題になっていますので発言します。ここでは、平常時、地震時と分けておりますけれども、台風時の方が、強風と強雨とが同時確率が高くなって一番問題なんじゃないんですか。

【国総研】  これは雨水が浸入した後の話をしていますので、当然、台風のときに雨水が浸入しやすいということはありますけれども、単に浸入した後どういう問題が起こるかということを考えて書いております。

【主査】  ああ、そうですか。

 どうぞ、○○先生。

【委員】  国総研に似る組織でイギリスにビルディングリサーチエスタブリッシュメントという組織がありますけれども、そこが出している、要はラッシュというんでしょうか、そこにおびただしく、雨漏りはこうやって起きるということが出ていて、比較的実務者に使われているんですが、やはりあれができるというのは、国総研と同じようなポジションで皆さんが率直にそういった事例を出してくださるということが、そういった資料の編纂に不可欠だと思うんですね。ですから、先ほど協力団体と左にあった方々のほうの協力が極めて、表向き「ノー」とおっしゃる方は少ないのですけれども、そういった具体的な事例をつくって、世の中全体のいわゆる基盤をつくりましょうと、経験的な知識のあれをつくりましょうというのは非常に抵抗感が大きいと思うんですけれども、しかし、国総研しかそれはできないと思いますので、まずそれをつくられた上で、今、予定されているような、その中でも特に解析が必要なところを実験されていくような仕立てにされるのがいいのではないかなと思います。

【国総研】  はい、そうですね。年間計画につきまして、先ほど示しましたけれども、いろいろな工法でありますとか、いろいろな事例の調査をできるだけ初年度にやって、いろいろな実験等は2年目以降と。

【委員】  ここは勝負だと思いますので、ぜひ頑張って。

【委員】  よろしいですか。

【主査】  はい。

【委員】  10年の瑕疵担保ということで、劣化を考える必要性があるのですが、多分こういう場合には材料自体がそんなに劣化をするわけではなくて、材料が何かと接合されていて、その間の変形に齟齬が生じて、はがれたり割れたりということで生じるので、ぜひそういう複合された状態での検討をしていただきたいと思います。

 それから、さっきの図で地震時というのがあったのですが、直接そこに矢印が書かれていたのはちょっと奇異に感じました。雨水が浸入してなぜ地震時に脱落しやすくなることにつながるのかをもう少し説明をしていただけるとありがたいです。多分、何か劣化が生じてというのが間に入ってきて、だと思いますが。

【国総研】  そうです。ちょっと書き方が悪いのですが、もちろん地震時に脱落しやすくなるというのは、左に書いてある平常時のことも関係しておりまして、肢体材や構造材が腐朽・腐食していて脱落しやすくなっている。

【委員】  ということは、左側を制御できれば右側はあまり起きる可能性がないという、そういうことでよろしいのでしょうか。

【国総研】  もともと雨水浸入とは別に、外壁が落下するしないの話は、それは別途当然ありますが、ここでは雨水浸入にかかわる部分として書いてございますので、もちろん雨水浸入がなくなれば右に書いてあることは当然関係なくなりますけれども、別途、外壁が脱落するしないは、雨水浸入とは別に当然、地震時には起こり得る現象であります。

【委員】  それは、このプロジェクトの対象外ということですよね。地震時に雨水の浸入とはかかわりなく外壁が落ちないことに対しての要求、ということですよね。

【国総研】  それはおっしゃるとおりです。すみません。この絵がちょっと誤解を招きやすいので。

【委員】  すみません、全く今のお話の続きなんですけれども、最初の評価書の1枚目を見ると、いわゆる法律があって、瑕疵かどうかを判断するために研究するんだという話があるので、ちょっと嫌みな質問になるかもしれませんが、10年目でたまたま雨水が浸入して外壁がよれている建物と、瑕疵がなくて外壁がよれていない建物があって、地震が来ますね。ぺらっと外壁がはがれて焼けちゃったというときに、この瑕疵担保履行責任というのが生じるか生じないかということを判断しようというための研究というふうに思っちゃうんですけれども、その辺はどういうふうに考えるんでしょう。

【国総研】  これにつきましては一番下のところに書いてありますけれども、補償金の還付に関して専門的、技術的な査定による額の確定を行うというあたりでありますので、瑕疵かどうかの話は、ちょっとこの研究課題とは別の話だと考えております。それは別途。

【委員】  ああ、そうか。はい。

【主査】  そのためにやるのかと思ったらそうじゃないんですか。瑕疵担保責任の施行に関連して、判断基準が不十分だから、国総研としてそれを十分なるデータをととのえましょうという、そういうご趣旨じゃないんですか。

【国総研】  これは一つは、将来的にはいろいろな雨水浸入を防止するための基準をつくる検討をしたいということを申し上げましたが、この補償金の還付のところにつきましては、損害があった場合にそれが例えばどれぐらい修補に必要かというような額の確定を行うというところが国総研が技術的支援を行うところでありますので、先ほどのところでいいますと、例えば補修にかかわる検討を行うとか、そういうことがありましたけれども、こういう雨水浸入があったらどれぐらいの補修をいなければいけないか、どのぐらい額がかかるかというようなところを技術支援を行うというのはその部分であります。直接的には。

 先ほど、ご質問にありました瑕疵かどうかということは、また別途検討が必要かとは思いますが、少なくともこの研究課題とは別のところの話で考えております。

【主査】  今、還付金とおっしゃいましたか。

【国総研】  補償金の還付。

【主査】  還付するということは、瑕疵を認めたということじゃないんですか。

【国総研】  それは瑕疵を認めた場合に幾ら払うべきかという、「幾ら」というところです。

【国総研】  10年間義務だから、ちょっと地震との掛け算はよくわからないのですけれども、10年以内に雨水が入れば、もうそれは売り主の責任なので、売り主が金を出すのですけれども、売り主が倒産してしまうと、その請求権が国のほうに行きますので、そのときに幾らかという判断をする材料がないので調査をしたいと。国交大臣が額を認定してお金を出すという行為に最終的になると思うんですけれども、その行為をすることの技術支援をするための調査ということです。

【委員】  よろしいですか。

【国総研】  ○○先生のほうが詳しいので。すみません。

【委員】  いや、僕は、昔ちょっと雨漏りのことを研究したものですから、ついマニアックになっちゃうんですけれども、住宅の工法って本来は伝統的な住宅は雨水が入ってきたらば、それを外に出していくという機構を持っていたわけですよね。最近はそうではなくてメンブレン式に全部すき間がなくなるようにシリングなどで固めていこうと。それが地震や劣化などによってすき間があくために水道がどこへ行ったかわからないということで、大変悩ましい問題になっているということですので、要は、技術的な問題と法律的な解釈は少し切って、やはり国総研はまず、技術的にこうだよということだと思います。というのは、一番出てくる核心は、メンブレンを完成させることが長期的に10年間なり20年間することが非常にクリティカルであるにもかかわらず、そういった工法をとったということが瑕疵になるのかどうかというのは、これはやはり法律家の方々にもお話ししないと。

 要は、完全に最初から、翌日からジャージャー漏りというような話にはならないのですけれども、そうではないケース、事例を集めてくると出てくると思うんですね。すき間がいろいろと深くなればなるほど、メンブレンというか、すき間をつくらないというのは極めて難しくなっていくと思いますので、時間軸の中で。そこが瑕疵かどうかというのは、これはそこの考え方としたら、法律的な専門家の方を考えていかないと。要するに、無過失か過失かどうかということの判断というのは、これはやっぱり技術方だけで判断するのは危ないんじゃないかと思います。

【国総研】  ちょっと地震との併用のやつは、僕、頭が整理できていないので、地震がない状態で雨漏りがすれば、それはもう瑕疵の責任は発生しているという前提で。

【委員】  ものとしては瑕疵ですね。明らかに。

【国総研】  ものとしては考えると。それが厳密に設計瑕疵なのか施工瑕疵なのかとかいう議論をする前に、もうそれは補償すべき対象だというふうに位置づけていますから、そこについてはきちんと10年以内だったら対応するという前提で、繰り返しですけれども、そのときに売り主が倒産してしまったときの国土交通大臣の出番があって、それを技術的に支援するための材料を整理したいということであります。

【委員】  すみません。1点、言い忘れていたことがあります。劣化の話に戻りますが、最終的には10年もたせようということで技術開発などをやっていくことになると思いますが、そのときに、その技術がほんとうに10年もつかどうかというあたりが開発側にとっては重要だと思います。つまり、10年間の曝露試験を行えばいいのですが、そうはできなくて、促進劣化試験などが絶対必要になってくると思います。これに関しては、並行していろいろなプロジェクトが動いていたりするので、それらも参考に、ぜひ、あらかじめ10年もたせる技術をどうやって検証できるかということについて少し目を向けていただければと思います。

【国総研】  はい、わかりました。どうもありがとうございます。

【主査】  ほかには。

【国総研】  新しい技術開発はあまりするわけじゃないんでしょう。

【国総研】  ええ、ここでは新しい技術ではありませんけれども。

【国総研】  新しい材料というよりも、今ある材料が施工性も含めて安定して10年間……。

【委員】  そのときに10年間もつことを保証するためには、どうやって評価すればいいのかというのが。

【国総研】  はい、それはもちろん。

【委員】  それが必要なのでということです。

【国総研】  わかりました。失礼しました。

【主査】  よろしゅうございますか。

 それでは、事務局、先生方のシートを集めてください。

(評価シート回収)

【主査】  先生方、熱心な議論をありがとうございました。これは瑕疵担保責任の法律の施行から考えても、ぜひこれは実施していただきたいテーマであるということは、先生方皆さん共通しているのではないかと思います。ただ、内容に関しましてもう少し論旨を詰めていただきたいというようなご意見が幾つか出ているかと思いますので、その辺を少し充実させていただくということで、ぜひやっていただけたらどうかと思います。

 こんなコメントで皆さん、いかがでしょうか。よろしゅうございますか。じゃあ、そういうことでお願いします。

【国総研】  どうもありがとうございました。


↑ページTOPに戻る




〈事前評価課題E「高層建築物の地震後の火災安全対策技術の開発」〉

【国総研】  それでは、最後の課題になりますが「高層建築物の地震後の火災安全対策技術の開発」というテーマで、きょうは建築研究部の○○から説明をさせていただきます。

 このスライドにございますように、研究の背景といたしましては、近い将来に大きな地震が起きるであろうという可能性が高くなっていると。これは先ほど発表されました、2008年度版の推進本部の地震マップでございます。昨日の地震をよく見ますと、この中では下から2番目のレベルのやや高いところで起きているわけですけれども、それでも、昨日は震度6強の地震になっておりますけれども、震度6弱以上のものが真紅のエリアでいいますと今後30年に26%以上の可能性がある。真紅のエリアのかなりのところに都市域が入っている。仙台から始まりまして東京、名古屋、大阪等々ですね。そういうところに高層建築物がかなり建っておりますので、その辺のことに関して研究をしてまいりたいと思っております。

 こういったところに大きな地震が起こりますと、当然ながら、その中心部分では震度6よりも強い部分が出てまいりますので、激震エリアがございまして、ここでは倒壊のようなことも起きますから、ここは研究の対象にどうしてもできませんので、ここは除きます。その外側には黄色い部分でありますと、主要構造体にも被害は起きますけれども、当然建物としては維持できている。そのさらに外側には安全に支障のあるようなものにはほとんど被害がなくて、建築物としては建ってるけれども、全く何もないわけではないというところがございます。この研究課題では、黄緑色と黄色の部分の火災安全性を対象にして研究をしていきたいと思っております。

 背景の次のページに行きますと、都市域で高層の、特に共同住宅というのが増えております。ここで高層の定義は必ずしも世の中にはありませんが、おおむね研究対象としては10階以上ぐらいのものをイメージしております。増えているということは、かつては非常に丁寧につくり、設計者も施工される方もいろいろなことに配慮が届いたかと思いますが、残念ながら参入企業のすそ野が広がる、また、経済環境が厳しくなってコストの意識というのは非常に強くなってまいりますと、規制で求められることは最大限満たさなければいけませんが、それ以外の配慮がやや欠けるというような状況が増えてまいります。これは実態としてあろうかと思います。

 その上で、地震が起こりますと、やっぱりこれまでも例えば2つの例を挙げておりますけれども、玄関の防火ドアが開かなくなったと。もしくは、スプリンクラーヘッドが飛んでしまったというような被害が起きております。なぜこういうことが起きるかといいますと、一つは、地震と火災というのは、実は建築規制でも主要なものなんですけれども、主要なものであるにもかかわらず、それぞれ別個にずっと発展しておりますので、地震と火災は同時に起きないという前提がございます。一方で、地震が起きると、当然これは被害が出てまいりますので、防火区画とか防火設備のありようとか、柱の被覆がちゃんとあるかどうかというのは、同時に規制はしていないので、おおよそ期待ができる部分はありますが、必ずしも明確にちゃんと確保していますとは言いづらいところがございます。その結果、火災が抑制できるかというのもわからないということはあります。

 現実に神戸では、この例は必ずしも中心ではございませんけれども、耐火造のマンションの上階のほうで防火扉が開かずに避難ができなかったために亡くなるというような火災事例もございまして、やはりこういうことは懸念としてはかなり強いものがあろうかと思います。

 さらに悪いことに、高層建築物は当然、在館者が多いというのもございますし、加えて高層になるほど防火戸、スプリンクラー、屋内消火栓等の被害率は高いということは過去の地震では明らかになっておりますので、本研究では高層建築物を主対象として検討してまいります。

 ということで、何もわからないというのはとにかく困りますので、わからない裏にある地震後の火災安全にかかわる技術情報というのが欠落しているのは明らかですから、この情報を蓄積していく。その上でそういう情報に基づいて建物の特性がこうだから、あるレベルの地震が起きるとこうなる。だからそれに対してこういう火災安全について戦術を確保していこうというようなことを確立していきたいと思っております。それによって被災後の建物は継続利用性も高まりますし、それゆえに利用者の生活の質の向上も図れますし、そのほか地域全体としての地震後の復旧を助けるということも、当然行えると思っております。

 これは地震被害と防火関係の施設のあり方を簡単にポンチ絵として描いたものですけれども、最低基準としては中地震まで完全にすべてのものが地震以前と同じ状態の機能を維持するということを求めるというのがございますし、より高い基準を想定するのであれば、これは推奨基準とならざるを得ないと思いますが、中地震を超えた地震に対しても完全機能のエリアが広がって、機能障害はあるけれども、機能のかなりのものは生き残るというところがだんだん増えていくというようなことを実現できるのではないかと思います。

 研究の対象に、細かい字でいっぱい書いてありますが、火災安全にかかわるものは非常に多くございますので、この辺のものを一々つぶしていくというようなことが必要になってくるかと思っております。

 これは全体の流れ、かえって見にくくなっておりますが、最低基準であろうと高い水準であろうと、やることは基本的には同じで、破線で囲んでありますように、どういうふうに安全確保するかというフレームをつくって、最低基準であれば中地震を対象に、高いレベルであればそれを超えたどこのレベルの地震を対象にするかということが違ってくるだけで、それに必要な技術を開発して、それが実現できるような設計目標を示して、こうしなさい、こうつくりなさいというようなガイドラインを示していく。と同時に、管理者にとっては、あなたの建物はこういう性能を持っていますから、こういう地震が来たらこういうふうな避難安全計画を立てなさいというようなことをガイドラインとして示していくというイメージを持っております。

 研究体制ですが、この課題は官のところがちょっとほかの課題と違いまして、国交省だけでは閉じません。というのは、総務省消防庁の中にも当然、火災安全を主につかさどっている部署がございまして、そこでも地震後の消防設備のあり方についてかなり懸念を持っているということで検討を始めようとしております。そこでいろいろ連絡をとりつつ情報共有をしていくというようなことをもう既にやっておりますし、今後も引き続きやっていきたいと思います。

 それから、当然ながら、機器をつくっている、もしくは被覆をつくっているのはメーカーさんでありますので、それを取りまとめている役割のゼネコン各社の皆さん、メーカーさんというようなところともいろいろな情報、それから共同実験というようなことを考えておりますし、一方で大学の先生方には地震被害調査、もしくはそれぞれの先生が個別にやられている研究も既にございますので、そういうものと情報の提供等をやっていきたいと思っております。それから、当然、建築研究所とは共同実験というようなことで深い関係でやっていきたいと考えております。

 それから、大変申しわけございません。お手元の資料では、この中身のH21からH23の横線が欠けてしまっていることに先ほど気がつきました。大変失礼いたしました。基本的には最初の2年度で、比較的ハードに絡むことについて、地震時にどういう被害が生まれるか、それによって当然、機能としては落ちるわけですけれども、じゃあ必要な機能を維持するためにはどういう技術を開発したらいいかというようなことをやる。最後の1年にそれをガイドライン的にまとめるというのが上2つのテーマでございます。

 一番下については最初のほうにフレームワーク、当然、これは技術開発にも必要なフレームワークになってまいりますので、フレームワークをやった上で、それぞれの技術の設計目標というのをうまくつくって、最終的には管理者と居住者に対して火災安全戦略をつくるためのガイドラインというものをつくっていきたいと考えています。

 これが活用ということになりますが、既に言葉としては今までのスライドで説明しておりましたけれども、上2つは主として設計者や施工者が使えるものとして成果をまとめていきたいと思っております。その一部は基準法もしくは品確法の中に反映されるということは当然あろうかと思います。それから、最後のものは施設管理者でありますとか、利用者の方々へ地震後の火災安全に対してあらかじめ準備するというようなものの助けにしていきたいということを考えております。

 以上で説明を終わらせていただきます。

【主査】  ありがとうございました。

 それでは、委員の先生方、ご意見、ご質問をお願いします。○○先生。

【委員】  2つ質問があるんですけれども、地震後というのはどのぐらいのスパンを考えているんですか。例えば、テレビの報道であれですけど、きのうの地震でも、地震の発生した後30分ぐらいで火災が出たと。そのぐらいのスパンなのか、例えば再使用を開始した後まで考えているのか。それが第1点です。

 もう一つは、やっぱり火災が出た後の拡大の防止、それによる被害の防止という視点だと思うのですが、出火の防止という視点はここには入っていないでしょうか。

【国総研】  1点目ですが、時間については前者でございます。地震直後というイメージでとらえておりまして、その時点で火事がなくても避難すべきかどうかを判断するというようなスキームを提案したいと。

 それから2つ目ですが、出火原因を建築側から扱える部分というのは割と少ないと思うんですね。これまでの出火原因ですと、木造ですと復電に伴う出火ですとか、そういうものがございますけれども、今のところ、我々としては出火原因そのものを建築サイドでコントロールできるものがあまりイメージできていないものですから、現時点では出火原因については検討の範囲に含めておりません。

【委員】  わかりました。

【主査】  ほかにいかがでしょうか。はい、どうぞ、○○先生。

【委員】  私もタイトルの言葉の定義なんですが、高層建築物は確かに定義はあいまいで、10階建てぐらいより高いものを考えておられるようですが、なぜ中低層は地震と火災、その2つの問題が同時に起こることの対象から外れているのか。

【国総研】  途中のスライドでも簡単に書きましたけれども、一つは、高層ほど入っている設備ですとか、火災安全装置関係が被害が多いというのが実態としてございます。それからもう一つは、高層は在館者が多いので、リスクも高まるということが当然あります。ただ、当然ながら、高層では起こるけれども中低層で起きないということばかりではなくて、高層で対処できる技術が中低層でも対処できますので、技術の普及という意味では当然エリアに入りますが、とりあえずはこういうところをターゲットにすれば幅広く扱えるのではないかと考えております。

【委員】  はい。

【主査】  ほかにございませんでしょうか。○○先生、どうぞ。

【委員】  写真には集合住宅しか出てこなかったのですが、オフィスビルも入るのですよね、というのが質問であります。また、オフィスビルをいろいろ見ていると、カーテンウォールのスパンドレル部分の区画が、防耐火上ちょっと危ないのではないかなというのが現在一番気になっているところで、その部分がしっかりしていないと一気に燃え上がる可能性が出てきて大変なことが起きるので、ぜひ検討していただければと思います。

【国総研】  かなり共同住宅にシフトしてスライドはつくっておりますが、一応、視野の中にはオフィスビルもございます。それから、先生にご指摘いただいたカーテンウオール、スパンドレルの件は、地震後と言わず、平常時でもいろいろな先生方から懸念をお伺いしておりますので、当然、それはより地震時には顕著になるという可能性がございますので、あわせて考えていきたいと思っております。ありがとうございます。

【主査】  私のほうから1つだけ質問します。こういう問題、過去に全然研究されていないことはあり得ないと思うんですよね。ご説明を伺っていて、なぜ改めてこれをやらなければならないかということをもう少し明確に説明していただくと、この必要性が理解しやすいんじゃないかと思います。

【国総研】  もちろん過去に、定性的な、概念的な研究というのは当然かなりできておりまして、いろいろな先生が文書としては書いておられます。一方で、定量的な検討になりますと、割と最近、おそらく2000年以降に防火区画が地震時にどう変形するかというのが実験を伴って検討が行われるようになっておりまして、まだまだ、概念としては成立しているんだけれども、個々を埋めるのがあるかと言われると、必ずしもしっかりはないというのが実態だと思います。

【主査】  そういうふうに言っていただけると大変よくわかります。

 先生方、シートのほう、お願いします。

(評価シート回収)

【主査】  見せていただきました。大変皆様、この研究の必要性を高く認めていただいておりまして、これはぜひ実施してください。二、三、質問がありましたけれども、僕が一番気になるのは、高層建築の問題ですね。高層が心配であるという指摘もありますが、中低層にもやっぱり同じ問題があるということです。特に雑居ビルとか、そちらのほうがよほど怖いわけです。○○先生のご指摘も含めて、部分的で結構ですけれども、付加してぜひ実施していただきたいと思います。そんなコメントでよろしゅうございますか。

 はい、じゃあ、どうもありがとうございました。

【国総研】  ありがとうございました。

【主査】  そうしますと、これで評価は一通り終わりまして、第二部会終了となります。きょうご評価いただきました評価書の作成をこれから進めるわけでございますが、大体、皆さんからきょうそれぞれの課題について、大きな方向につきましてご意見とご賛同をいただきました。特に前半のほうにつきましてはもう定量化して評価していますからあまり議論はないかと思います。後半に関しましてもおおむね合意した評価をいただいておりますので、あとは議事録を確認しながら、修文等は座長に一任ということでお願いしてよろしいでしょうか。

 ありがとうございます。

 それでは、きょう予定されている議事はこれで一通り全部終わりました。せっかくのチャンスでございます。先生方、何か全体を通じてご意見ございますでしょうか。

 私のほうから一言申し上げます。大変多くの研究がなされておりました。国総研という研究機関として具体的実験をやるような話と、本省に協力して政策策定の技術協力をしなければならないという、両方の大きなミッションを大変充実して、巧みに実施していただいているという、そういう印象を持ちました。どうもありがとうございました。

 それでは、あとは事務局のほうにお返ししてよろしゅうございますか。

↑ページTOPに戻る

4.今後の予定について

【事務局】  ご審議ありがとうございました。先ほど主査からおまとめいただきましたとおり、評価書のほうにつきましては、主査とご相談の上、最終決定させていただきたいと思います。また議事録等、委員の皆様方には別途ご連絡、打ち合わせお願いいたしますので、よろしくお願いいたします。また、最終形につきまして公開いたしますことにつきましては、先ほどご説明のとおりでございます。

 なお、委員のお手元に先ほどのパワーポイントの資料の紙版がなかったということで大変失礼いたしました。お手元に置かせていただきましたのでご確認ください。

【主査】  説明者の皆さんと委員の皆様、時間の管理にご協力、大変ありがとうございました。

【事務局】  それでは、○○所長よりごあいさつをお願いいたします。

↑ページTOPに戻る

5.国総研所長挨拶/閉会

【所長】  ほんとうに朝からありがとうございました。前半の事後評価のほうは、皆さん、お優しい委員の方ばかりなので、みんなおおむね良好ばかりなのですが、あわせてつけていただく個別のご意見をしっかり大事にして、中身を続けていろいろな成果に結びつけたいと思います。よろしくお願いします。

 それから、もう一つの事前評価につきましても、これはいろいろご期待いただくご意見をたくさんいただきまして、きょういただいた中身を踏まえて、国総研らしいアウトプットをしっかりとやらせていただきたいと思います。今後も引き続きよろしくお願いいたします。

 本日はありがとうございました。

 

↑ページTOPに戻る