【資 料 名】 |
夏季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動 |
【概 要】 | アサリ Ruditapes philippinarum は日本各地の干潟や浅場に生息する代表的な食用二
枚貝である。近年では,濾過食者としての高い海水浄化能力により,環境改善の面からも同種の重要性は高まっている。
しかし,アサリの資源量は全国的に激減しており,その主な原因として,東京湾では,アサリの主要な生息場所である干
潟や浅場の埋め立てによる消失が挙げられる。高度に開発が進んだ東京湾においてアサリの資源を回復させるには,生
息場所の造成や資源保護区域の設定が有効と考えられるが,それには,孵化後2〜3週間浮遊生活を送るアサリ幼生が
何処で生まれ,そして何処に行くのかをしっかりと把握する必要がある。そこで,本研究では,アサリ浮遊幼生の移流経路
を解明するための基礎データを得ることを目的として,東京湾に約3.5kmの間隔で設けた65測点で,幼生の出現密度を2
001年8月2,6,10日の日程で計3回測定した。幼生の最大出現密度は,D型幼生では2510個体m-3,殻頂期幼生で
は2725個体m-3であった。殻長頻度分布の経時変化から,東京湾におけるアサリ浮遊幼生の殻長成長速度は1日当た
り15〜18μm,浮遊期間はおよそ10日間と推定された。孵化後間もないと考えられる殻長100μm以下の幼生は,盤洲,
富津,三枚洲〜羽田,横浜そして市原周辺の海域に多く分布したことから,これらの海域がアサリ幼生の発生源と考えられる。
自然の干潟や浅場だけではなく,港湾域もアサリ幼生の供給場所として機能していることが示唆された。同一の個体群と考
えられる8月2日に優占した殻長110μmの個体群と,8月6日に優占した殻長170〜180μmの個体群の出現密度の水
平分布を比較した結果,分布の中心は羽田〜三枚洲および盤洲周辺の海域から,湾中央部に移っていることが明らかとなっ
た。8月6日の東京湾では,強い北風により引き起こされた湧昇フロントが湾中央部に観察されたことから,アサリ浮遊幼生の
水平分布には物理的な収束機構が作用していることが示唆された。 |
【執 筆 者】 |
粕谷智之,浜口昌巳,古川恵太,日向博文 |
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