研究成果概要


国総研研究報告 第 54 号

【資 料 名】 海岸における海洋プラスチックの滞留時間の計測と海岸清掃への応用に関する研究

【概   要】  海岸における海洋プラスチックの滞留時間を把握することは,海洋プラスチック起因の環境リスクを評価し,効果的な海岸清掃を講じる上で,必要不可欠である.本研究では,海洋プラスチック起因の環境リスク評価に向けた第一歩として,東京都新島村和田浜海岸においてプラスチック製の漁業フロートの平均滞留時間の計測及びその決定要因の一つである再漂流過程の物理メカニズムの解明を行った.さらに,平均滞留時間を用いた海岸清掃効果の評価手法を提案し,効果的な海岸清掃について提言した.
 和田浜海岸における漁業フロートの残余数は指数関数的に減少し,平均滞留時間は224日(208日-242日)であった。一方,海岸に残った漁業フロート(残余フロート)は,遡上イベントで沿岸方向に動き,海岸沖合にある潜堤背後に集積していた.沿岸方向の動きを一次元移流拡散方程式で表現して数値実験を行ったところ,潜堤背後から漁業フロートが沖合に再漂流することがわかった.潜堤背後は,沿岸流の収束域となり,沖合への戻り流れが発生する.したがって,漁業フロートは沿岸流によって輸送され,沿岸流の収束域である潜堤背後に集積し,その一部が潜堤背後で発生した沖合への戻り流れによって,再漂流した可能性が示唆された.
 次に,漁業フロートの残余数が指数関数的に減少したことから,線形システム解析に基づいた海洋プラスチック起因の2つの環境リスク(海岸へのプラスチックに含有する重金属の溶出及びプラスチック微細片の発生)に対する海岸清掃効果の評価手法を開発した.海岸清掃効果は,海洋プラスチックの新規漂着量の変動周期(新規漂着周期)に対する滞留時間の比に強く依存し,その比が大きい程,海岸清掃効果は高くなる.また,海岸清掃効果は,清掃時期にも依存し,海岸における海洋プラスチックの存在量の極大時期で最も高い.したがって,効果的な海岸清掃を実施するため,海洋プラスチックの滞留時間,新規漂着周期及び存在量の極大時期を各海岸で計測することが重要である.

【担当研究室】 沿岸域システム研究室

【執 筆 者】 片岡智哉



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