研究成果概要


国総研資料 第 901 号

【資 料 名】 控え矢板式岸壁の永続状態における目標安全性水準に関する
諸考察

【概   要】  「港湾の施設の技術上の基準・同解説(平成19 年)」(以下,現行基準という.)では,防波堤や係留施設の全体安定性の照査に対して,レベル1信頼性設計法(部分係数法)が導入された.本研究の最終目的は,現行基準の次期改訂に向けて,控え矢板式岸壁の永続状態における矢板根入れ長,矢板壁本体の応力,タイ材の応力,の照査に対する新たな部分係数を提示することにある.本研究では,控え矢板式岸壁の永続状態における部分係数の見直しに向けて,現行基準と平成11年度基準により設定される最小断面や実際に建設された断面が保有している安全性を,安全率を指標として比較・評価することにより,目標とすべき安全性水準について検討した.
 本検討の結果,矢板根入れ長については,現行基準は平成11年度基準に比べてより大きな根入れ長を必要とするものの,過去の設計断面で根入れ長不足による破壊に至っていない実績を踏まえ,目標とする安全性水準は平成11年度基準による断面が保有していた水準とすることを提案している.
 永続状態で必要とされる矢板断面(矢板壁本体およびタイ材(タイロッド))については,現行基準は平成11 年度基準に比べてより小さな断面で成立するものの,この断面諸元は,我が国の港湾構造物の耐震設計の下限として決まる最小断面(照査用震度0.05 によって決まる断面)より小さな断面であり,実際に設計・建設されることがない低い水準であった.これは,平成11 年度基準から現行基準への移行にともない,実質的に矢板断面の安全性水準の下限値が引き下げられたことになる.以上のことから,現行基準による設計事例を全国から収集し,照査用震度0.05 から0.10 程度で設計された断面について,鋼材の降伏強度に対する永続状態における実質的な安全率を指標として,その安全性水準の設定実績を整理した.この結果,これらの検討結果や設計モデルの誤差,実績数がまだ十分でないこと等を踏まえ,本研究では矢板の永続状態における鋼材応力に関する目標安全性水準と して,当面、今回調査した設計実績の範囲における実質的な安全率の上限値付近(矢板は1.4程度,タイ材は2.0程度)とすることを提案する.

【担当研究室】 港湾施設研究室

【執 筆 者】 松原 弘晃,竹信 正寛,宮田 正史



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