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海岸の研究
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

2.高潮・高波減災支援システム

 

(1)背景
 今後、地球温暖化を伴う気候変動による海面水位の上昇、台風の強大化により、高潮・高波による被害の頻発化が懸念されています。自治体による避難指示の発令や住民の迅速な避難、適切な水防活動を行うためには、各海岸の堤防等の高さを考慮した越波予測情報の提供が求められています。
 
(2)高潮・高波減災支援システムの開発
 高潮高波減災支援システムとは、高潮・高波等による浸水を予測し、水防や公共施設の減災(オペレーション)等に役立てるため、全国約500地点でのうちあげ高及び全国(一部島嶼部を除く)に配置された重点監視箇所に於ける浸水危険度をリアルタイムで予測するものです。
 気象庁から受信した波浪・高潮予測をもとに計算した「波浪うちあげ高予測」と「浸水危険度予測」により、台風接近時などにおいて、浸水の恐れがある海岸線がどこなのか、水防団が退避を完了させる時間帯がいつなのか、海岸堤防の天端高などと比較しながら想定することができます。
 全国約500地点におけるうちあげ高と重点監視箇所に於ける浸水危険度は、台風予報円の中心と通るコースと予報円周囲を通る4つのコース(計5コース)について、予測初期時刻から39時間後まで予測されます。
 
1)波浪うちあげ高予測システム
 うちあげ高とは、台風や低気圧により発達した波浪が、海岸堤防等に遡上したときの高さです。
 うちあげ高は、波浪、潮位、海底形状、堤防形状から予測されます。波浪うちあげ高予測システムでは、予測されたうちあげ高が海岸堤防の天端高と比較してどの程度の高さになるかを表示しています。(図1)



図1 波浪うちあげ高予測システムの概要


2)浸水危険度予測システム
 一部島嶼部を除く全国約500箇所設定した重点監視箇所を対象に、潮位の予測値に沿岸での有義波高の予測値の1/2を加えた値をもって越波による浸水の危険性があるものとして予測しています。(図2)


図2 浸水危険度予測システムの概要

 詳細は、以下の文献をご参照ください。

・加藤史訓,井樋世一郎(2022),高潮・高波の浸水被害を事前に予測するシステムの開発〜避難行動につながるわかりやすい情報発信をめざす,国総研レポート2022,P138-139

3)うちあげ高観測技術の開発
 リアルタイムのうちあげ高については、常時観測が行われておらず、海岸管理用の監視カメラで越波の有無を確認する方法しかないのが現状です。各現場でうちあげ高をリアルタイムに観測することが出来れば、水防活動への活用に加えて、うちあげ高予測システムの予測結果の妥当性の確認にも活用することができます。
 国総研では、海岸堤防に設置したカメラ画像を用いたうちあげ高観測技術(図3)や超音波式水位計を用いたうちあげ高観測技術(図4)を開発しています。


図3 カメラ画像によるうちあげ高観測技術



図4 超音波式水位計によるうちあげ高観測技術

 詳細は、以下の文献をご参照ください。

・福原直樹,竹下哲也,加藤史訓ほか(2019),画像処理技術を用いたうちあげ高計測手法に関する検討,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.75,No.2,I_1276-I_1272
・福原直樹,加藤史訓ほか(2020),うちあげ高観測に対する超音波式水位計の現地適用性の検証,土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.76,No.2,I_678-I_683

4)うちあげ高予測の精度検証事例
 波浪うちあげ高予測システムにおけるうちあげ高予測結果の精度検証事例として、2019年台風19号における駿河海岸の事例を図5に示します。図中には、うちあげ高観測値と各初期時刻のうちあげ高予測結果の時系列が記載されています。
 なお、うちあげ高の観測範囲はT.P.+6.9m〜10.7mであり、その範囲に入る波のうちあげがなかった時刻については、観測値がプロットされておりません。
 うちあげ高予測値のピークは12日4時にピークとなり、その時間最大値はT.P.+9m程度で、うちあげ高の観測値と概ね一致しており、広範囲で越波が生じた現地の状況とうちあげ高予測値が天端高T.P.+8.2mを越えている状況が整合していました。


図5 2019年台風19号における駿河海岸での精度検証事例

 詳細は、以下の文献をご参照ください。

・加藤史訓,福原直樹(2020),現地観測による2019年台風19号接近時のうちあげ高予測の検証,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.76,No.2,I_841-I_846



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