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海岸の研究
海岸研究室

海岸研究室 研究テーマ
[2]津波・高潮

5.高波に対して粘り強い海岸堤防の構造検討


(1)背景
  2014年の海岸法改正に伴って、海岸保全施設の技術上の基準を定める省令において、設計規模を越える津波・高潮・波浪に対して海岸堤防の損傷を軽減する機能(粘り強い構造)を確保することが明記されました。また、2020年には海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な方針として、安全な海岸の整備の一環として粘り強い構造の堤防の整備の推進が示されました。

  粘り強い構造とは、「破壊されない構造」ではなく、堤防が破壊するまでの時間を長くし、全壊の可能性を減らすことで浸水被害の軽減や復旧費用の低減、避難時間の確保等の減災効果を有する構造のことです。


(2)粘り強い海岸堤防構造に関する検討

 1)堤防表側(海側)の粘り強い構造に関する検討

  堤防表側(海側)の被災は、波浪により堤防前面の地形が洗掘され、構造物の安定性が低下することにより生じます。そこで、堤防前面の洗掘に着目した工法について大型・小型水理模型実験が行われ、その効果の確認が行われました。
  その結果、最も効果が高かった工法は粗礫相当の粗粒材養浜工であり、堤防前面の洗堀を抑制することで堤防の被災には至りませんでした。
  矢板工や基礎工近傍の地盤改良工においても効果は認められましたが、波浪が小さくなった段階でも洗堀が進行しており、小さな波浪が長時間作用する場合は被災に至る可能性も考えられます。よって、このような工法を用いる場合は、波浪による堤防前面の最大洗堀深を把握することが重要であり、最大洗堀深を基に検討を行うことが必要です。



図  有効性が確認された堤防前面の粘り強い構造の例


  以下の動画は、長さの異なる矢板を設置して、堤防前面の洗掘深と堤防破壊の関係を検討した際の大型水理模型実験の一部です。
  4つの画面のうち、左下は0.75mの長さの矢板を設置したケース、右側(右上・右下)は、0.625mの長さの矢板を設置したケースの動画です。これらの動画は同じ波浪を作用させた際の同時間帯の部分を抜粋したものです。
  右側の動画では、堤防前面の洗掘が進行し、堤防前面を支えていた矢板が傾いていくとともに、堤防を被覆している構造物が徐々にずれていっており、動画後半では生じた隙間から堤防の中に水が侵入していく様子が見てとれます。一方で、左側の動画では、堤防の構造に変化はありません。
  このように、粘り強い構造を用いる場合は、洗掘深を推定し、適切な設計を行う必要があります。




  詳細は、以下の文献をご参照ください。

・竹下哲也,福原直樹,加藤史訓ほか(2018),高波浪による海側の洗堀に対して粘り強い海岸堤防構造に関する実験的研究,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.74,No.2,I_1087-I_1092.


・福原直樹,姫野一樹,加藤史訓ほか(2023),高波浪に対する矢板工を用いた粘り強い海岸堤防の構造諸元に関する大型模型実験,土木学会論文集B2(海岸工学).  ※本論文は査読中


 2)堤防裏側(陸側)の粘り強い構造に関する検討

  堤防裏側(陸側)の被災は、堤防を越えてきた波(越波)によって、堤防裏のり尻付近の地盤が洗掘されることにより生じます。そのため、洗掘を抑制する工法や許容される洗掘深を延長する工法を用いた構造の効果について検討されています。
小型水理模型実験が行われ、その効果の確認が行われました。
  その結果、
  • 「根留工+矢板工」

  • 「根留工+被覆工根継ぎ」

  • 「根留工+段積みブロック」

  • 「異形根留工」
  が越波に対して粘り強い構造であることが確認されました。



図  堤防裏側の被災要因



図  有効性が確認された越波に対する粘り強い構造の例


  詳細は、以下の文献をご参照ください。

・竹下哲也,加藤史訓ほか(2017),越波に対して粘り強い海岸堤防の構造に関する実験的研究,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.73,No.2,I_1093-I_1098.


 3)堤防全体の粘り強い構造に関する検討

   1)、2)で示した海岸堤防の粘り強い構造の検討は別実験で行われたものであり、表側や裏側の各変状が相互に与える影響の可能性については考慮されていません。そこで、既往研究で効果が認められた表側・裏側の対策を施した条件での水理実験が実施され、高波浪における粘り強い海岸堤防の構造について総合的な検討も行われました。
  その結果、洗掘に対する脆弱性は堤防裏側に比して堤防表側の方が高いこと、堤防表側の変状が裏側の変状に対して、あるいはその逆の変状に対しても影響することが確認されました。




図 nbsp;実験から確認された変状の相互作用
(例:堤防表側から裏側への作用)



  詳細は、以下の文献をご参照ください。

・福原直樹,加藤史訓ほか(2021),高波浪に対する粘り強い海岸堤防構造に関する実験的研究,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.77,No.2,I_709-I_714.


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